昨年10月にテレビ東京の深夜で放送されるや、瞬く間に大きな話題になった番組がある。
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』だ。
リベリアの墓地に住む元人食い少年兵や台湾マフィア、アメリカのギャングといった"ヤバい奴らのヤバい飯"を映し、ギャラクシー賞月間賞も受賞した。
今年、4月にもロシアのカルト教団の村や不法に国境越えを目指すセルビアの難民たちに密着する第2弾が放送され、大きな反響を呼んだ。
それを演出・プロデュースしたのが、テレビ東京入社7年目( 第1弾当時 )の上出遼平。
Paraviではディレクターズ・カット版が公開され、7月16日には、第3弾も放送される。
それを記念して、上出氏が番組にかける思いや、これまでの経歴、そしてそのルーツまで話を聞いた。

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――『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の反響はいかがでしたか?

上出:結構ありましたね。出版社の方とか漫画家の方とか、色々な人から飲みに行こうよって誘ってもらったり。田原総一朗さんや冒険家でノンフィクション作家の高野秀行さんが褒めてくださったりとか。嬉しくて色々な画面をスクリーンショットしました。大先輩の佐久間P(テレビ東京の『ゴッドタン』『青春高校3年C組』などを手がけるプロデューサー)や、有吉弘行さん、たくさんの放送作家さんたちが拡散してくれたのもとても大きかった。あと、うんちょこちょこぴーのGO!皆川さん(笑)。意外なところでは、広告業界の方がすごい見てくれているそうで、嘘だと思いますけど、最近「ハイパー」ってつく企画書が増えたとか(笑)。視聴率は決して高くなかったんですけど、ネットでバズって、配信の反響で第2弾がつくれて、今度も7月16日(月・祝)に第3弾をやれることになりました。

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――意外な感想ってありましたか?

上出:ハッとさせられることもありました。第1回のリベリアの回では、ある娼婦にたまたま出会って、お客さんをとって晩ごはんを食べるところまでついて行ったんですけど、体を売って手にしたのが200円で、そのあと食べる食事が150円。それを見た視聴者の方が「あれは体が安いのか、食べ物が高いのか、どういうことなんだろう」って。確かにどっちなのか。そういう風に色んな人がいろんなポイントで考えを巡らせてくれるなら、つくっていて意味があるなって。普通の番組なら「体、安いですねえ」っていうようなナレーションが入ってくると思うんですけど、そういうのを全部なくした結果、考える余地を与えることができて、視聴者の方もスリリングな経験ができたのかなと思ったりしました。
あとは、秋葉原の風俗嬢の方が、そのお店の公式Twitterで「最高だった」ってつぶやいてくれてて。ハッシュタグが凄かったですけどね、「#風俗」「#デリヘル」とか(笑)。すごく嬉しかったです。

――上出さんは入社後、最初から制作だったんですか?

上出:そうです。最初は『ありえへん∞世界』のADに配属されました。その後、『世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~』という月曜夜9時の番組に立ち上げからADで入って、その番組でディレクターになりました。タレントさんではない人たち、俗にいう"一般の人"を取り上げて、1時間の番組をつくるというノウハウを全部ここで学びました。この番組をやっている中で『ハイパーハードボイルドグルメリポート』をやりたいという思いが蓄積されていったんです。

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――どういうことですか?

上出:『世界~』は、もちろん現地の日本人を紹介するんですけど、前半10分弱でその国を紹介するブロックがあるんです。ディレクターそれぞれがその国の面白いところを撮ってくるんですけど、その中で僕は普通の人が行かないヤバイところに行くことが多くて。人が見たことがないことを見せたいなって思いが強かったし、仕事で人が見たことがないところを見られるのも最高だなっていうのもありました。それでいろんなことを見てきたんです。貧しいところとか治安が悪いところに行くことが多かったんですけど、そういうところで暮らしている人たちにすごい心を打たれたことが何度もあった。こんなお金がなくても家族で楽しそうにゴミの塊みたいなのを蹴って喜んでる。こんな風にこの人たちは幸せをみつけているんだ、と。こういうのをテレビで出したいなってずっと思ってたんです。そうしたら自殺が減るかもなって。日本人は「こうじゃなきゃ」っていうのが固まりすぎてて自己嫌悪に陥ったりしててナンセンスだなって思ってたので。

一方で、いろんな国のいろんなご飯を目にして、面白いなって思ってた。「そんな調理法ある?」とか「そんなもの食う?」とか。ゲテモノに限らず、普通に美味しそうなんです。たとえば、トンガ王国では、裏庭に穴を掘ってそこで焚き火する。そこに車のエンジンのスクラップとかバンバンぶち込んで鉄が真っ赤になるまで熱してそこにバナナの葉っぱでくるんだココナッツオイルと豚肉を並べて、土かぶせて1時間待つと、蒸し煮――「豚肉のココナッツ蒸し」みたいなやつができる。ものすごく美味しいんです。他にも、全然違って見えるのにやっているのは日本のあの料理と一緒だよね、みたいなことがあったり。共通点とぜんぜん違う部分があって色々と楽しめるポイントがあるなって思ってました。料理には世界の人々の知恵が凝縮されていて、見れば見るほど世界中の人をリスペクトするようになっていったんです。こんなクリエイティブなもの他にあるか?って。

地を這うように生きる人たちの美しさを見せたいというのと、世界のいろんな料理が面白いっていうのが合わさったような番組がやりたいというのが『ハイパー~』の企画の発端なんです。偶然にも「飯」っていうのが、短期間のロケで人の心を覗き込むのに最良のツールだった。その人の過去、現在、未来、人種、民族、土地、労働、夢、希望、喜び、悲しみの全てがその日の「飯」に詰まってる。「同じ釜の飯」を食うことで、ドキュメンタリーが作れることに気づいたんです。

――スタジオに小籔千豊さんを起用したのは?

上出:予算の問題もあって、そもそも誰もいらないんじゃないかっていう説もあった。でもやっぱりあのVTRを、スタジオで見ている人なしにぶん投げた時に、視聴者の皆さんが今以上の拒絶感というかショックを受けると思ったんです。視聴者と同じ側で、VTRを見てる人を入れないとあまりにも見づらい。誰がいいかなと思った時に、色々なことを色々な方向から考えてくれる人で、ちょっとダークなイメージがあるけど、ベースの「やさしさ」を持ち合わせている人がいいなと思って小籔さんにお願いしました。ただ僕、あんまり芸人さんに関する知識がなくて、小籔さんがベジタリアンで肉系を食べられないっていうのを収録中に知ったんです。全然美味しそうっていうリアクションにはならない(笑)。それは申し訳なかったです。基本的に、番組全体に「やさしい」っていうのがキーワードにあるんです。

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――やさしい?

上出:ディレクターもVTRをつくる腕だけじゃなくて、「やさしい」人じゃないと一緒につくりませんっていうのを掲げてやってます。昨今は、出てくれる素人の方に上からとか斜めの目線でつくる向きがありますが、それはありえない。この番組に関しては、厳しい状況に置かれている人たちが主役だから、彼らへのリスペクトや共感を忘れない人がつくらないと絶対ダメだと思っています。基本はああいうところであんな風に暮らしていて、でも夢を持って生きているあなたたちはすごいって目線でずっとつくってます。飯も、それを撮るだけのために重い一眼レフをわざわざ抱えて行って撮っているんです。だから、飯を食う瞬間だけ質感が違う映像になっているんですよ。それもやっぱり彼らがうまいうまいって食っている飯を最高に美味しく撮りたいという思い。リスペクトしたいから。美味そうでしょって出したい。よく「実際は美味しくないんじゃないですか?」って聞かれたりするんですけど、僕からしたら、美味しいと。あんな状況の人が、一口くれるわけですから、そもそもそれは美味しいし、そこで「イヤ、これはちょっとスパイスが効きすぎで・・・・・・」って言うわけないじゃないですか。それは逆にリアルじゃない。誰もがあの場でああいう風に一口貰ったら、「美味い!」ってなるからあれが真実なんですよ。俺たちのほうが恵まれてるとか、俺たちのほうが立派だとかそんなことはつゆほど思わない。彼らのほうがタフで強くてカッコいい。ずっとそう思ってつくってます。本当は言うまでもないんですが。

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――番組で行かれた場所はどの程度、事前に想定されているんですか?

上出:実はリベリアには『世界~』で2年くらい前に1回行ってるんですよ。元少年兵たちが住む廃墟にも行った。元防衛省のビルで、いまは取り壊されてなくなってる。だから、『ハイパー~』で行ったときにはなくなってたんですけど、まだ色んな所にそういう場所があるっていうのは知ってたんです。なのでこれはできるだろうという目論見がありました。行く国によってもちろん状況は違っていて、例えばこの前のロシアは、怪しげな教団信者たちが住む村があることはもちろん知っていて、事前にアポを取って行っている。アメリカのギャングも一応案内してくれる人までたどり着いてからロケに行っている。だけど、セルビアの難民とかは本当に何もわからない状態で行ってます。国境沿いで野宿している少年たちがいるということまでは分かっているけど、どこにいるかはわからないっていう状況で日本を出た。というのも仮に1ヵ月前に場所が分かっても、1ヵ月後には彼らのアジトは変わっているんですよ。どんどん当局につぶされては動いて、つぶされて動いてっくらい流動的だからリサーチしても意味がない。だから、行って撮れなかったら他のことを考えましょうと。

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――すべて上出さんが行かれているんですか?

上出:いや、僕はリベリアと台湾とロシア。アメリカのギャングとセルビアは僕の先輩のもうひとりのディレクター(制作会社「ゼロクリエイト」の木下大揮)。『世界~』を一緒にやってきた人なんですけど、この人はすごいんですよ。"不良"ですけどね(笑)。不良なんですけど、ものすごく「やさしい」。だから、ああいうVTRが撮れる。セルビアでも、少年と一緒に、本当は隠している寝ぐらに行ったりとか。そういうことも彼ならできる。本当に人によって撮れるVTRはぜんぜん違うと思います。

――少年が探しに行ってなかなか戻らなくなった時、現地のスタッフはしきりに「ヤバイ」「危ない」と帰ろうと促してましたよね。

上出:現地のドライバーとかは本当に「アイツら(野宿をしている難民たち)は信用できない」というのが基本的な見方なんですよ。セルビアにもともといる人たちにとっては、難民の子たちは悪いやつに見えているんです。実際いろんな犯罪を犯しちゃったりしてるので、仕方ない。だって盗みでもしなきゃ生きていけないんだから。ですけど、彼はギリギリまで粘ってくれる。「何が本当かわからない」っていうのはこの番組のどのネタもそうで、誰が言っていることが本当のことなのか、どこまで行ってもわからない。我々スタッフとしては、出会った難民の子たちを信じるしかないんですが、セルビアの難民たちもあの廃墟の中でいろんないさかいがあるんです。100人くらいいるんですけど、アフガン系、パキスタン系とか派閥があって、あの中で殺し合いがあったりもする。何が真実か分からない中で、誰かを信じてロケをしていく。その出会いがすべてです。セルビアでもあそこに行った瞬間にディレクターは色んな人に出会う。度胸がすわってないディレクターだと色んな人をちょこちょこ取材してコミュニティのカタログみたいなVTRになるんですよ。でもそのディレクターは肝がすわっているので、こいつだって決めて、"物語"を撮ってくる。やさしくて度胸がある。最強です。何が起こるかわからないんで、やさしく現地の人と触れ合って飯を撮ってくる。身の上話を聞いてきてありがとうって帰ってくる。それだけなんです。すごくシンプル。

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――ロシアの教団の村の中にあった、信者じゃない人が営んでいる店に行ったのも偶然?

上出:完全な偶然です。信者の人と移動しているときに「水買いますか」なんて言って入ったんですよ。そしたら宗教で禁止されているソーセージとかビールがあって、あれ?って思って。一緒にいた信者の人が表に出た時に、もしかしてって聞いたんですよ。そしたらあんな話がでてきて、あれがなかったらあのVTRはかなり偏ったものになってたと思います。全部奇跡。ロケはそういうことの連続ですよね。ああいう教団のロケの場合はリベリアとかのパターンと違って、取材を受ける側はようこそいらっしゃいましたっていうスタンスなんですよ。事前にお話して行ってまっすから。それはそれでものすごく難しい。VTR見ると分かるんですけど、最初は民宿に案内されてすごく美味しい料理を振る舞われる。やっぱそうなっちゃうんですよね。「これを見てくれ」っていうのに次から次へと案内される。オンエアされてないですけどすごく裕福な信者の家に何軒も連れていかれているんです。だけど、それだと番組にならない。教団のPRビデオになっちゃうので。そういう時に僕らはなるべくそこから逃れる、案内してくれる人を"巻く"っていう作業に入っていく。どうやったら案内役の信者を巻けて、この宗教は素晴らしいっていう話以外を聞けるかなって考えた。その結論が子供だったんです。そこで子供を見つけたんで、とにかくこの子にくっついていかせてくれって。そしたらやっぱり全然裕福じゃない暮らしがあって、ご両親は離婚して、結構苦しい暮らしをしてる。本人たちは最高ですって言ってはいるんですけど、何かそこに感じるじゃないですか。やっぱり完璧じゃないぞっていうのが透けて見えてくる。手放しの幸せはありえないとわかってくる。脇道に逸れたロケをしていくとリアルなものが見えてくるんです。

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――次回、第3弾の見どころは?

上出:今回は、ADの子、ディレクターになりたての子がそれぞれ一人でアメリカとネパールに行って撮ってきてます。これまでよりは、多少荒いものになっているんですけど、だけど「やさしい」2人が外国のヤバい人の懐に飛び込んで何かを撮ってきた、それを世に出したいので一本やります。これはこれで面白いんです。僕が思っている正解がそもそも正解じゃないので、新人の彼らの方が正しいかもしれない。アメリカは「出所飯」と銘打って、刑務所の前にディレクターが張って、出てくる人に何食うんですかって聞いていく。断られまくるんですけど、1人いいよって言ってくれたおじいちゃんがいて、その人は8歳で逮捕されてから薬におぼれていってしまった。「足首にGPSつけにいかないとな」っていったりするんですけど、その人に飯について行って語られることは何か・・・・・・と。

ネパールは、インドのガンジス川の上流がネパールに続いている。その川がインドと同じくヒンズー教の聖なる川になっていてその川沿いにある寺院にロケに行っているんですけど、そこで火葬場がズラッと並んでいてそこで人を焼いて灰を捨てていく。それがネパールのヒンズー教徒にとって一番ありがたい死に方。そこでいろんな形で暮らしている人がいて、それを取材しています。ひとりは川に入って磁石に糸を付けて、灰の中に紛れて入っている金属を集めて金にしている女の子たち。その子たちが何を食うのか、と。
そういう風に、人の死の周りで生きている人たちが何を食っているのかっていうのを日本の少年が撮ってきている。今までとはテイストはだいぶ違うけど、そんな生活があるんだとか、そんな顔して飯食うんだっていうのは同様に出ていると思います。

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1978年生まれ。テレビっ子。ブログ「てれびのスキマ」がきっかけとなりライターに。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『コントに捧げた内村光良の怒り』(コアマガジン)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。 近著『全部やれ。 日本テレビえげつない勝ち方』(文藝春秋)