『ネット興亡記』は記者・杉山(藤森慎吾)がITの歴史を取材するドラマとともに、実際の本人インタビューを差し挟んでいく。あの時なにが起きていたのか・・・2000年代のITバブルを振り返る構成だが、しかしこの特別トークセッションでは過去はあまり語られない。宇野と藤田は「周りの経営者は思い出話はしないですよ。ここからの話ばかり」と、コロナ禍の現在や、動画コンテンツの未来のことが話題の中心となった。先を見つめる経営者ならではの、鋭く広い視線がぶつかる。
「昔話はしない」。見ているのは、つねに未来。
そもそも2人の出会いは、大学を卒業した藤田が宇野の経営する会社に入社したことによる。20年以上も前のことだ。
トーク進行をつとめる日経CNBC瀧口友里奈キャスターにお互いの第一印象について聞かれると、振り返る言葉は少ない。「かっこいい大人ってこういうことだな。目を輝かせて夢を持って頑張っている社長を目の当たりにしたのは初めてくらい」(藤田)。「ベンチャー企業を志向している学生さんが多いなかで、単なる憧れでなく、熱意や姿勢が伝わった。当時は珍しい学生さん」(宇野)。
互いに尊敬に近い思いを抱いていたが、藤田は入社一年で退職を希望し、起業しようとする。止める宇野に対し、「宇野さんも1年で会社を辞めて企業したじゃないですか」と説得し、経営者として同じ道をたどった。
対談中に、ドラマ『ネット興亡記』の映像も流れる。サイバーエージェントが大きな危機を迎えた衝撃の展開を振り返りながら、ドラマでは描けなかった2人の信頼関係の裏側に切り込んでいくが・・・。
ここでも2人は深く語ろうとはしない。当時、互いが何を考えていたのかを聞こうとすることもない。藤田は言う。「周りの起業家は思い出話や昔の話をしないですよ。ここからの話ばかり。今はコロナの話ばかりです」。
コロナ禍で加速した、動画配信コンテンツの需要
対談中盤、ドラマ『ネット興亡記』に主演した藤森慎吾が登場した。お笑い芸人として若くして注目を浴び、その後はメディア露出が減って苦渋をなめた時期もあったが、今や俳優としても活躍し、相方とともにYouTube出演もコンスタントに続けている。
2005年新卒にあたる藤森はドラマ主演にあたって、「堀江(貴文)さん、三木谷(浩史)さんなど、憧れた人達が出演している」と喜んで出演を決めたそう。彼らベンチャー起業家について、芸人と似ていて共感すると話す。オリエンタルラジオもまた、藤森の"チャラ男"という商品を売り出した個人起業家のような仕事と言えるというのだ。それには宇野も藤田も、「まさに起業家」「芸人さんとミュージシャンとは起業の話が合う」と大きく頷いた。
そんな3人の話題にあがったのは、コロナ禍において盛んになったインターネットコンテンツ。なかでも動画配信についてだ。
宇野は映像配信サービスGyaO!からはじまり、現在ではさまざまな既存のエンタメ作品を配信するU-NEXTを運営している。オリジナルコンテンツではなく、いかに多くの作品をアーカイブするかを目指したのは、映画好きな学生だった宇野らしい発想だ。映像をライブラリー化する世界を追及することで、「われわれはプラットホームを提供する」という戦略をとっている。この数か月で「ネットを見慣れない人が見るようになり、裾野が広がった」と可能性に目を凝らしている。
一方の藤田は、このコロナ禍でNetflixを百時間以上も見ているという。約1000円/月でクオリティの高い映像作品が見られる環境におののきながらも、自社が目指すはメディア。ABEMAでニュースやスポーツ中継やバラエティなどオリジナルコンテンツに力を入れ、テレビの再発明を目指している。
そして藤森は、相方が「テレビをやめる」と宣言してYouTubeを毎日更新し、また自分も出演したYouTubeが大反響となったりと、テレビとネットにおける可能性を模索中だ。
この3人が、この先どんなネットコンテンツがのびていくかを予想する。コロナ禍を経てのオンラインの価値、テレビの変化、リモートワークの良さとその反対に顔を合わせながら語り合うことの必要性・・・語り合うほどに、起業家と芸人の生き方が、重なっていく。
最後には、スペシャルゲストとして『ネット興亡記』原作者であり藤森が演じる主人公のモデルでもある杉本貴司記者(日本経済新聞社)も登場。宇野と藤田の2人に焦点を当てることで、「日本のインターネットの歴史が描けるんじゃないか」と考えた企画の狙いを語る。そして、まるでドラマのように3人に質問を投げかけ、切り込んでいく。
藤森もまた言う。「芸能界でも残っている人って、昔話、自慢話をしない」。
現状を踏まえ、先を見続ける3人の経営者目線。ドラマでは語られない"未来の話"は、まるで『ネット興亡記』の続きを見ているようだ。ドラマで彼らの過去から学び、トークセッションで現在をとらえ、アフターコロナあるいはウィズコロナの時代をこのITの寵児達とともに生きていく・・・それこそが壮大な、人類の「興亡記」なのだろう。
(文・河野桃子)
◆番組情報
『ネット興亡記』
動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて配信中。なお、毎週水曜夜0:58からテレビ東京でも放送中。
(C)Paravi
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