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瀧口:本当に驚きの早さですけど、このイエバエがすごく特殊なイエバエということなんですか?

流郷:そうですね。過密空間での効率性を高めたイエバエで、50年間かけて選別交配をしております。

瀧口:50年間かけていらっしゃるんですね。

流郷:現在に至るところ1200世代ということで、選別交配をし続けていないと種が後退していくんです。やめてしまうと、例えるなら競走馬としてせっかくサラブレッドを作っていたのに、駄馬と交配させてしまって足が遅くなってしまうような状態になるので、ずっと選別交配をしています。

瀧口:スタートアップでいらっしゃいますよね。50年間というのはいつどこで続けられていたのか気になりますが。

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流郷:ずっと研究をしていた前身の企業があって、もともとの研究の起源をたどるとソ連の宇宙開発事業の一つだったんです。彼らが何をしたかったかというと、火星への有人飛行です。アメリカに月に先に行かれてしまったから、というところなんですが・・・火星には往復で4年かかるということで4年分の食料を狭いロケットに持ち込むわけにいかないですし、4年分の排泄物をどうするのかという問題があるんです。

そもそもの発想は宇宙飛行士さんの排泄物にイエバエの卵を置いて循環させて、昆虫食として食べるというものと、肥料は肥料で栽培に回していくという考え方から生まれたものなんです。なので究極の狭い空間での循環型サイクルをロケットの中で作ろうとしていたのが研究の起源です。1991年にソ連が崩壊した時に研究者がバラバラになって、その頃に日本にやってきました。

日本ではその選別交配という基礎研究を20年以上ずっと続けてきたり、飼料と肥料を使っていただいたり、大学と共同研究をしてエビデンスを取ったりというのを行ってきました。そしてこの技術を事業化するためにムスカを立ち上げたという流れです。

瀧口:すごいですね。旧ソ連時代の技術が日本のスタートアップに受け継がれていると。

村山:旧ソ連のハイテクというか、「ハエテク」ですね。

瀧口:そうですね(笑)。

村山:そんなことばっかり言ってますけど(笑)。

瀧口:ムスカの飼料と肥料というのは従来のものと比べるとなにか違いはあるんでしょうか。

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流郷:昆虫ってやはりすごいなと思うんですが、機能性に優れています。前身の企業で愛媛大学で共同研究させていただきまして、耐病性付与効果と誘引効果というものが分かりました。それが何かと言うと、耐病性付与効果は抗生物質の代わりになるような効果と思っていただいたらいいと思います。

どんな実験をしたかというとマダイの実験をしたんです。エドワジエラ症という、マダイがかかりやすい病気があるんです。その病気に感染させて実験をするんですけど、AとBの水槽に分かれていて、私たちのエサを配合したものと、配合していない一般のエサを「ヨーイドン」で与えていきます。その結果、一般のエサを食べたマダイは10日後には全滅してしまって、うちのエサを配合した飼料を食べたマダイは10日後もピンピン生きている。それが耐病性付与効果、抗生物質がいらないんじゃないかと言われている効果です。

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瀧口:他のメリットは何があるんでしょうか。

流郷:先ほど言った誘引効果ともう一つ増体効果というものがあります。誘引効果というのは食いつきです。エサに食いつく力。

瀧口:誘引は誘うということですね。

流郷:そうです。養殖の稚魚って食いつきが悪いんですよね。それによってあまり成長が進まなくて歩留まりが悪いと言われるんですけど、成長率が悪くて死んでしまう魚もいるんです。このエサは誘引効果が非常に高いのですごく食いつきがよく、残さず食べてしまうんです。

瀧口:美味しいんでしょうね。

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流郷:魚にとって非常に美味しいと思ってもらえたんだろうなと思います。鶏でも実験したんですが、むさぼるようにまっしぐらにうちのエサを集中的に食べていたり。他のエサが混ざっていたとしてもうちのエサだけついばんでいたと生産者からフィードバックで言われたりするくらいなので、非常に誘引効果が高いんです。

自然に考えると鳥も魚も昆虫の幼虫は食べるので、それによって増体効果と言いますが、体が大きくなる効果もあるんです。これって非常に重要なことで、魚の場合ですと出荷するサイズがある程度決まっていたりしますが、そのサイズにしてしまえば早く出荷することも可能になるんです。その分エサが少なく済めばお得に販売することができる。消費者にとってももしかしたらお得に買えるかもしれないので、消費者にとってもうれしいことかもしれないと。