「スタートアップ」が未来を創る――。話題のスタートアップや、イノベーティブな起業家をいち早く取り上げる「ビジネスにスグ効く」経済トークショー『日経STARTUP X』。PlusParaviでもテキストコンテンツとしてお届けする。
ムスカの社名はイエバエの学名「ムスカドメスティカ」が由来。家畜の排せつ物や食品工場の残渣(ざんさ)を利用して育てたハエの幼虫やさなぎを魚などの飼料に、幼虫が分解した廃棄物を農作物の肥料にするのが事業内容だ。何世代も交配を重ねて育てたエリートバエが秘めるパワーを、もともとは虫嫌いだったという流郷綾乃CEOが熱く語る。
瀧口:今回の日経STARTUP X、ご一緒いただくのは村山恵一さんです。村山さん、よろしくお願いします。
村山:よろしくお願いします。
瀧口:そして今回のゲストをご紹介します。株式会社ムスカのCEO、流郷綾乃さんです。流郷さん、よろしくお願いします。
流郷:よろしくお願いします。
瀧口:村山さん、ムスカという会社を経営されている流郷さんなんですけど、昆虫のハエを使ってイノベーションを起こそうという企業なんです。
村山:すごいですね。
瀧口:インセクト(昆虫)テックという。
村山:"なんとかテック"っていろいろありますけど、ついにインセクトテックまで。
瀧口:今日はたっぷりお話を伺っていきたいと思います。早速ですが、流郷さんのお手元に何やらお皿がありまして。マグカップと並んでいると「おやつかな?」って思ってしまいますが、これは何なんでしょうか?
流郷:えさと肥料です。
瀧口:え! こちらの白いのがエサですか?
流郷:そうです。魚や鶏や豚や牛が食べるえさですね。こちらは肥料で作物やお花を育てるためのものです。
瀧口:ちょっと見てもいいですか?
流郷:幼虫をそのまま乾燥させたものです。
瀧口:これ幼虫なんですか?
村山:よく見るとそういう形してますよね。
瀧口:シラスに似てますね。カレー味のシラスみたいな感じです(笑)。
村山:たしかに(笑)。
瀧口:これはもともとハエってことですよね。
流郷:ハエの幼虫ですね。
瀧口:で、こちらもう一つの方が肥料になるんですね。
流郷:これも元になっているのは畜産の排泄物。有機廃棄物と言われるものでそこにハエの幼虫を活用させてもらって、肥料と飼料が出来上がります。ハエ自体がゴミを分解してくれてこの肥料ができます。ハエの幼虫の分解物です。
瀧口:その分解したハエが最終的にこちらの形に。
流郷:はい、エサになります。動物性タンパク質飼料となるので、魚粉のような動物性のエサがあるんですけどそれに代替するだろうと言われているもので、かつ我々はさらに機能性があるだろうと考えています。
瀧口:実際にどんな感じで作っているんですか?
流郷:まず我々が活用しているハエというのが、"ハウスフライ"と言われているイエバエという種類のものです。学名で言うと「ムスカドメスティカ」というので、社名も株式会社ムスカにしました。
瀧口:そういうことなんですね。
流郷:我々の技術、"インセクトテクノロジー"って何なんだろうということだと思うんですけど、有機廃棄物、畜産の排泄物というものにハエを活用するんです。簡単に工程を話すと特殊なトレーがあって、そこに畜産の排泄物を流し入れて、一定量の比率でイエバエの卵をポンと置くんです。1日で大体孵化するんですけど、厳密に言うと8時間くらいで孵化しちゃうんですね。
瀧口:そんなに早く。
流郷:環境が綺麗に整えば、という感じですね。その後幼虫になるんですが、幼虫は人間の胃腸がくるっと裏返しになっているようなイメージなんですけど、消化酵素を垂れ流しながら、ゴミを消化して練り歩いている状態で分解していきます。もともと排泄物なので臭いんですが、分解していくと3日くらいでほとんど臭くなくなります。
さらに分解を進めていくと彼らはさなぎになりたいと思うんですね。そもそもハエ自体は卵、幼虫、さなぎ、成虫となっていくのでハエの幼虫がさなぎになりたいと思ったら、土の上から外にはい出るという性質があるんです。外にはい出てきたら別のボックスに入ります。それをボイルして乾燥してこの状態になるんです。
瀧口:そういうことなんですね。
流郷:それが大体1週間で分解されて終わるんですけど、分解され終わったものが有機肥料と呼ばれるものになります。
瀧口:なるほど。
流郷:それを現状の処理の仕方と比べると圧倒的スピードで、1週間という期間で完全に分解する。完熟堆肥と呼ばれるところまで分解するのが我々の技術のすごいところです。
瀧口:通常はどれくらいかかるものなんですか?
流郷:従来の処理の仕方でここまでの完熟堆肥にしようと思うと、1年から3年くらいかかります。
瀧口:それを1週間で。すごい早回しですね。
村山:相当「早え(ハエえ)」ってことですね。
流郷:その通りです(笑)。
瀧口:ハエだけに(笑)。
村山:ぜひ強調したいところですけど(笑)。