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原:何か秘密があるんでしょうか。

宮田:初期の頃は解約率も高かったです。サービスを出した当初は3%になる月もあったんですけど、お客さまの解約理由をヒアリングさせていただいて使いにくいところは直して、徐々に下がっていきました。ちなみに我々のようなSaaSの業界だと、月次の解約率が2%を下回っていると上出来と言われています。この2%はどういう状態かというと、平均して50ヶ月、大体4年ちょっと使っていただくという計算になっています。0.5%だと実際にはそういうことはないと思うのですが、理論上では16年くらい使っていただけるという計算になるので、それだけ満足いただいている製品を提供できているということかなと思いますね。

原:よくSaaSの会社だと「カスタマーサクセス」みたいな言葉があると思うんですけど、そういう活動はされたということですか?

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宮田:はい。我々がサービスを開始した2012年はまだ日本にカスタマーサクセスと言う言葉がほとんどなくて。我々も「カスタマーサクセスが大事だよ」といろんな人から聞いて、やろうと思って調べたんですけど、当時だとセールスフォースさんの広告がひっかかるくらいで何も情報がなかったんです。それを一から手探りで英語の資料を調べながらどういう風にしたらお客さんを満足に導けるかということを一つ一つやっていった感じですね。

原:そして数値がみるみる下がっていったという。

宮田:そうですね。

瀧口:カスタマーサクセスというのは、日本語で言い換えると何ですか?

宮田:お客さんを成功に導く人と言う感じです。具体的に何をするかと言いますと、お客さんがSmartHRを導入して彼らがちゃんと製品を使いこなせるまでの導入サポートですとか、その後継続利用していく中で困っていることはないかヒアリングをして、それを機能のアップデートや新機能開発に生かすというのをやってくれている仕事です。

原:これまでカスタマーサポートという考え方だったと思うんですけど、そこをお客さんと並走するというか、そういう考え方がSaaSならではの概念ですよね。

瀧口:コミット度が高いということですね。

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宮田:従来型の会計ソフトウエアだと売ったタイミングが収益を出す最大のタイミングなんですよね。なので営業に比重が行くんですけど、私たちのようなSaaSのサービスは基本的に月額の課金でお客さんから費用をいただくんですが、サービスを導入したタイミングだと完全に赤字なんです。長い年月使っていただくことで初めてお客さまからの利益が上回るという状態になる。使い続けていただくことが非常に重要なので、ちゃんと彼らが使いこなせるように一緒に伴走していくというのをカスタマーサクセスチームが担っています。

瀧口:そもそもなんですが、この人事労務という分野では他のスタートアップ企業でSmartHRさんのような事業をやってみようと目を付けているところはなかったんですか?

宮田:今は似たようなサービスがたくさん出ているんですが、当時は本当になくて。我々が企業向けに直接こういった機能を提供し始めた最初の会社だと思います。当時は本当に皆さん、手書き、はんこ、郵送、役所に並んで持っていくということをやられていました。

原:ここに気付けたきっかけはあったんですか?

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宮田:きっかけは妻の産休・育休手続きを実際に見かけたことです。当時我々は会社を作って2年目で、実は事業をたくさん失敗していて、新規事業のために何か世の中の課題はないか血眼になって探していた時期だったんですが、たまたま家に帰ると妻が自分で自分の産休・育休手続きをしていたんです。彼女は当時妊娠9ヶ月ですでに産休に入っていたんですが、なかなか会社が後回しにしてやってくれなかったので、しびれを切らして自分で役所に書類をもらいに行って。書き方を電話で聞きながらやっていたんですが、一般の従業員さんからすると聞きなれない単語が多かったりして大変なんですよね。

それを目撃した時に、たしかに会計や給与のジャンルは昔からソフトウエアがあるけど、社会保険手続きやその周辺領域の手続きは便利にするソリューションを聞いたことがないなと思ったんです。調べてみるとほとんどの会社さんがすごく大変で困っているけど、手書きでやるものだと思っているということが分かってきたんですね。ここは課題も深いですし、従業員さんを雇用している会社さんだったら必ずやっていることなので市場も大きいだろうということでSmartHRのようなものを作ったらニーズがあるんじゃないかと思って、今から4年前に始めた事業です。