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瀧口:大企業の新規事業失敗例というものには、何か共通項があるんですか?

奥平:前半の話だと守屋さんのお仕事の半分はスタートアップ支援、半分は大企業の事業創出支援ということでしたね。

守屋:たくさんのベンチャーをやっているので、それを見て大企業さんの方から「うちの事業開発手伝ってよ」という話も来て非常勤の事業開発メンバーとして参画させていただくこともあります。その時に思うんですが、大企業は基本的にベンチャーに負けるわけがないんです。あらゆるリソースも人間も優秀な人がフルタイムでごまんといるわけで、社名だって信頼を得ているわけじゃないですか。ただ唯一負けているところは強烈な本業があるんです。その本業に新規事業が汚染されて駆逐されていくという感じがすごくします。

これはどこでも一緒で全てが本業基準で考えるので、新規事業はなかなか難しい。劣悪な環境下に置かれるというのがほぼ全ての大企業の特徴だと思います。

奥平:本業が緩やかに下降線をたどっている時に、当然次を作らなくてはいけない。そこになるべく優秀な人材を入れるべきですけども、実際なかなかそうはならないですよね。緩やかに下がっていてもやっぱり本業が大きいからそこが大事になってしまう。

瀧口:たしかに緩やかに下がっているということを直視できるか、というのもありそうですね。

守屋:なんで新規事業やるのかというところが揃っていない。そうすると現場としてもやりにくいというのもありますよね。

瀧口:評価の仕方についても、大企業の中の評価の仕方に準じて、新規事業をやっている人を評価しようとすると難しいところもあるんですかね。

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守屋:僕自身がよく言っているんですけど、まず最初に何かの事業を立ち上げる前に大企業は三つの断捨離をした方がいいと僕は思っているんです。何を切り離すべきかというと、一つ目はお金の話、二つ目は意思決定の話、三つ目は評価の話です。

お金の話でいうと、大手の会社は単年度会計じゃないですか。上場していくと四半期開示なんですけど。このスピードは事業の成長に向かないと思うんです。今年度中にどうにかしなさい、と。例えば僕はラクスルという会社にいますけど、ラクスルは上場するまでに8年かかっているわけです。単年度会計だと間に合わない。それこそ事業を立ち上げて一生懸命試行錯誤している間に四半期なんて過ぎちゃいますから。やはり資金という部分が単年度会計で回されている限りはやはり個性が合わなくなってくる。

もう一つは意思決定で、月に1回の経営会議で何かを決めるというのはその時点でありえないと思うんです。ベンチャーとしては朝と晩で考えていることがずれても構わないと思うので、やはり1カ月に1回は無理だなと。

あと評価ですけど、新規事業が全部すべからくうまくいくとか、105%の達成率にしなさいというのはそもそも既存事業の話をしていて、どうなるかわからないものだと思うんです。チャレンジした時点で評価してあげるべきだし、うまく行ったら花丸を付けてあげるべきだと思うんです。ただ既存の評価軸で言うとなかなか難しいので、一旦切り離した方がいいと思っています。

奥平:組織を全く別にした方がいいということでしょうか。子会社にするとか。よくある新規事業開発室、みたいなものだと難しいと。

守屋:そうですね。場所も変えてもいいんじゃないかと思いますね。

奥平:実際いろいろなケースを見聞きされる中で、大企業発の新規事業創出でうまくいっている事例の共通点はありますか?

守屋:ちゃんと出島をしているケースだと思いますね。あとはトップの経営陣自らが、なぜやるのかということをちゃんと理由付けして、やると決めていることだと思います。よくあるのがまず事業開発室みたいなものが組成されて、社内から人事異動できる人間が異動してきて、この箱で今季中に何かを立ち上げる。この時点で根本的に僕はおかしいと思っていて、本当に勝ちに行くなら何の事業をやるのかによって適任者が集まるべきだと思うんです。でもとりあえず箱ができて異動できる人間が入ってきて、年功が上の人がトップに来たりする。

奥平:そういう所って結局異動させやすい人が入ってくるということですよね。あの辺の関係者で笑ってる人いますけど(笑)。

瀧口:それだとなかなかこの人が欲しい、という人が来てくれなかったりしますよね。

守屋:ちょっと極端な例え話をしますけど、例えばテレビの会社が弁護士事務所をする時にテレビのスタッフが法廷に立つかということなんです。メディアの人間が病院をやる時に、メディアのスタッフがオペ室でメスを握るのか。ここまで極端な話をすると適任者を雇うべきだとわかるのに、ちょっとわかりにくくなると自分たちで完結しようとするので、ここで事業展開がうまく行かない一歩目を進み始めてしまっているということですよね。

奥平:耳の痛い話でもありますよね。渋い顔をしている人もいますけど(笑)。

瀧口:だんだん目が合わなくなってきていますけど(笑)。今までの話を総じてですが、新規事業成功の方程式みたいなものは見えたのでしょうか。

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守屋:正直わからないんですよ。

奥平:わからない、というのが結論。

守屋:そうですね。どうやったらうまくいくのかというのはよくわからなくて、本当に必死にもがいて苦しくて一生懸命やっていると時々うまく行く、というのが現実的な答えかと思います。こういう風にやってこうやったらうまくいく、というのはなかなかその通りにはならないですね。

瀧口:その中でも守屋さんだからこそできることというのが確実にあると思うんですが、その部分は何ですか?

守屋:たぶん何度か通った道、既視感があるということは結構大事だと思うんですね。事業を立ち上げるその道はどんな道かはわからなくて、先々が見通せないんです。見通せない中で見通せないなりに、それでもなんとなくの既視感を持ってこんな感じだと思う、少なくとも自分の経験だとこうだ、ということを語れる人間がそばにいるということはそれだけでもチームが安定しますね。

瀧口:道しるべになる存在。

奥平:やはり経験した人、失敗した人を大事にするというのはポイントなんですね。

守屋:そうですね。せっかくの経験なのでそれは生かした方がいいと思います。

瀧口:私も出稽古をたくさんやろうと思います。ありがとうございました。

守屋:ありがとうございました。

瀧口:量稽古でしたね、間違えました(笑)。

奥平:どこへ行くんだろうと思いました(笑)。

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