20190628_nikkei_10.jpg

奥平:例えばミスミは田口さんという創業者がいらっしゃって、守屋さんを10年間同じところに置いておこうということにしたと思うんですけど、そうではないローテーションがあるような会社もありますよね。そういう場合はキャリア形成として難しいんでしょうか。

守屋:難しいかもしれないですね。ただ難しいということとできないということはまた別だと思いますし、今のこの時代だといろいろなサービスがありますよね。副業もできる時代ですし、インターネット上にはあらゆる自分のスキルを売ったりボランティアでサービス提供したりできるあらゆるサービスがありますから、難しいだけでできないということはないと思います。自分自身で自分の旗印を揚げない限り、事は始まらないと思いますね。

奥平:なるほど、副業が解禁されていなくても、ボランティアなら問題ないですね。

守屋:そうですね。

瀧口:もちろん田口さんとの出会いがあったと思うんですが、ご自身がやはり新規事業を起こすのが好きだというのは大きかったんでしょうか。

守屋:そうですね。ただ頭で考えて自分は新規事業をやるべき、ということを思ったことはないんです。自分自身が手掛けてみて、それをへこたれずに頑張ることができて、たまたまうまくできたときはめちゃくちゃうれしくて、そういう繰り返しの中で自分は好きなのかな、と思い始めたというのが正直なところです。

瀧口:走り続ける中でこれは面白いかもしれない、と気づいたんですね。

守屋:基本的には新規事業を起こすって前例がないところで道なき道を切り開くということがあるわけですよね。それをストレスに感じられることはなかったんですか?

守屋:やっている時に辛いか辛くないのか、困難に立ち向かうのに大変かそうじゃないかというと、辛いし大変なんです。あらかたうまくいかないというのが正直なところです。それでもうまくいった時の喜びが本当に大きくて、それがあるからいまだに頑張ることができる。そんな状況です。私自身で言うとミスミにいる27歳の時にある新規事業を立ち上げたんですけど、いまだにその事業を立ち上げた時の思いというのはエンジンでありガソリンになっています。

奥平:それはどんな事業だったんですか?

20190628_nikkei_13.jpg

守屋:動物病院を対象にしたカタログ通信販売のプロジェクトなんですが、例えば我々がアスクルを使うとコピー用紙やクリアファイルを頼んだりしますよね。動物病院がアスクルを使うとするとそれはペットシーツだったりメスだったりカテーテルだったり包帯だったりする。そういう動物病院向けのアスクルのようなものを作ったんです。1997年、27歳の時に2人で立ち上げたんですけど、初年度で3億円くらい売り上げて、総勢6人のメンバーで6年後に20億円売り上げたんです。当時日本に8千件動物病院があったんですが、うち6千件取れたんです。

瀧口:すごいですね。

守屋:今は日本に1万件くらい動物病院があるそうなんですけど、うち9050件くらい取れていると聞いています。私も離れてしまいましたし、ミスミとしても売却した事業なので正確な数字はわからないんですが。それが自分の中でかっとばした感があって。世の中をガラッと変えて、自分の事業のビフォーアフターが明確に見えた。これがすごく衝撃がありました。いまだに27歳の時に立ち上げたことをこういう場所でも話しますし、そういうものが自分のエンジンやガソリンになっていますね。

奥平:景色が変わったというのは、動物病院がもともといろいろな所に注文しなくてはいけなかったものが、一つの窓口でよくなったと。

守屋:出入りの業者さんと人的な販売をしなくてはいけなかったものが紙の通販に置き換わった。これまでのレガシーな産業にインターネットが入るようなものですね。

瀧口:そういう意味ではラクスルなどとも似ていますね。実際守屋さんが手掛けられた中で新規事業の成功率、勝率というのはどれくらいなんですか?

20190628_nikkei_16.jpg

守屋:ミスミとエムアウトで20年間のうちに17回新規事業にアサインされたんですけど、その中でいうと5勝7敗5分けだったので、基本的には負け越しです。5勝は何らかの形で黒字化をしまして。7敗は赤字で終わってしまったり、それこそ参入すらもさせてもらえなかったり。じゃあ5分けはなんだって話ですけど、何度か連続して失敗すると「どうして僕たちはこんなに失敗するんだろうプロジェクト」を立ち上げるわけです。それから時々うまくいったときは、「どうして今回はうまく行ったんだろうプロジェクト」を立ち上げたり。これは黒字でも赤字でもないという感じなので、5分けという数字に表しています。

瀧口:検証するための事業ということですか?

守屋:事業というより自分たちで集まって原因を究明して考えて反省するというものですね。

瀧口:成功の理由ってよく聞かれると思うんですけど、ご自身の手掛けた事業の失敗の中で、何か要因になるようなものはあったんでしょうか。

奥平:何か失敗の共通点みたいなものは見えてきましたか?

守屋:一番の理由は人だと思います。成功する理由も失敗する理由も多くの部分は人にあると思っていて。例えば我々3人で事業を作りましょうという時に、たぶんうまく行っているときは3人仲が良くて目標もすり合っているんですけど、うまくいかなくなるとそれが微妙に崩れてくる。その微妙な所が今までの良循環を悪循環に簡単に変えていく。それによって崩れてくるんですね。

それが結果としてビジネスモデルの勝ち筋を見つけることができなかったとか、たまたま資金が枯渇したとか何か言うんですけど、その悪循環に入った原因というのは、何らかの人的なものがあると思っていますね。

20190628_nikkei_14.jpg

瀧口:敗因として言われるものはあくまで結果として出てきたものであって、そもそもの原因は人だと。それはコミュニケーション不足みたいなものですか?

守屋:そういうものもありますし、ベンチャー的な話でいうと資金調達した瞬間にちょっと立ち居振る舞いが変わってしまったり、メディアに露出することによって変わってしまったり、そんなことも含めてですね。

瀧口:組織作りのもっと手前の部分なんですね。人間関係の。

奥平:実際、最近は大きな資金調達がしやすい環境になっているので、その同じミスをする可能性は高まっているんでしょうか。

守屋:とは思います。ただ昔に比べて情報の流通量というものがすごく多いので、半歩先、一歩先を行く先輩たちの話を聞いたり学んだりすることも容易にできる時代になっている。そういう意味で言うと失敗した人間が「失敗しました」とちゃんとみんなに伝えていくことも、失敗を減らすということでは大きな意味を持つと思っています。