原:逆に目があった瞬間に落とすんですか?
丸:すごく目を合わせるのが上手な人がいるんです。そうすると「君はもっと違う会社で活躍できるから」って言いますね。駄目ではないんです。人を否定するわけではないですけど、でもここじゃなくていいと。すごい素敵な女性でハキハキ話す理系の女性などは、アナウンサーになった方がいいんじゃないですかって。そっちの方がサイエンスを伝える仕事ができますよね。それは否定しているわけではなくて、我々の活動はもう少し泥臭くて、人に認められるのに時間がかかって、承認欲求だけでは生きていけなくて、みたいな世界なんです。裏の裏も掘っていただいて初めて出てくるわけです。掘らなければ僕なんて全然表に出ないですから。
瀧口:研究者にとっての10年というのは、傍から見ると成果を出すためにずっと耐えて耐えて研究した10年と見えるんですけど、研究者の方からすると活動として楽しい10年ということですよね。
丸:「幸せです。ほっといてください」と。でもそれだけだとやっぱりお金にならなかったり、それが伝わらないままでいたりで、それで税金を使わせていただくのってよくないんです。そこも閉じちゃったのが従来の研究者の問題。だから「やりたいことやっていいよ。でもそれを社会に対して伝えていこうね」というのが僕らがやっている一番根本の、"サイエンスブリッジコミュニケーター®"という職業です。
瀧口:社会とのパイプを作る役割。
丸:「これが好きなのはわかった、これをやっていいよ」と。でもこれを伝えていく仕事をプラスでやらないと、これからの時代は続けられない。「じゃあ誰がこれをやるの?」となった時に誰もいなかったんです。だから僕らがブリッジ役になろうと。それがたまたま教育になったりベンチャー育成になったり、新規事業の作り込みになったりしたわけです。
瀧口:研究者の方だとパイプを作るというより研究をするのが楽しいという方が多いですよね。
丸:そういう人は絶対残らなきゃいけないんです。ノーベル賞を取る方のお話を聞いていると、基礎研究というのはノイズがあったらいけないんです。本当に幸せに研究できる研究者を増やしていかないと科学技術立国は駄目なんです。僕らの役割はその人たちが研究に集中できるようにブリッジ役をやっていく。通常だとその人達がやれと言われてしまうんですが、集中して研究できないじゃないですか。僕らはその天才研究者と伴走しながら、そのナレッジをブリッジしていく。
研究者がより研究に集中できて、産業界がより産業に集中できるように僕らがブリッジ役に集中する。研究には二つあって、基礎研究的な研究と産業界が事業化しなくてはいけない研究。これは両方必要なんです。基礎か応用かなんて言っている場合じゃなくて、両方必要。これを融合させるためにつなぐプロが必要。どうやってこれをビジネスにするの?ということを考え出したのがリバネスの一つの発明です。
原:やはりそういったブリッジする人がいるからこそ、研究者は自分の研究に没頭することができるし、それが一番幸せだと。
丸:そうです。なので、僕らはここのブリッジの研究者です。だから幸せなんです。どうやったらもっと早くこの研究が伝わるのか、という研究を全員でやっています。
瀧口:しかもその幸せというのは生活もしなくてはいけないので、いくら楽しく活動をしていてもその方のご家族もいますし、その人自身も生活していかなくてはというところですよね。
丸:そうです。食べていかなくちゃいけない。今こんなに豊かな日本ですけど、研究が大好きで、でもそれだけでは食べていけないのでアルバイトをしながら研究している人も昔はたくさんいましたし、今でもいらっしゃいます。でもそれはやっぱりちょっと違うなと思っていて。そういう方々が研究に没頭できる仕組みは国がこれからちゃんと作っていった方がいいと思います。
瀧口:先ほどの活動と労働について、働き方改革の話でもあるなと思って伺っていたんですけど、働き方改革って時間を制限して働くという側面がありますけど、やりたいから長時間働いているという方も多いですよね。
丸:ちょっと話脱線してもいいですか?この前マレーシアで子供の教育のイベントをやっていたんですね。僕らが主催している、マレーシアの中高生が自分の研究を発表するサイエンスキャッスルという学会。そこで中学生くらいの女の子がインタビューに来て。「丸さん、ちょっとインタビューいいですか?」って言われて、「日本語しゃべれるんだね」っていう話から「こういう研究をやっていて」と話していたんですが、「君は何をやっているの」って聞いたら、「会社を作って世界のいろんな面白いものを発信しているんです」と言うんです。
面白いことに、僕が今度(イギリスの)ロンドンとシンガポールに行くという話をしたら、その女の子が「ロンドンにもシンガポールにも私の仲間がいます。ロンドンの○○ちゃんと連絡とるので、その活動もレポートさせてください」と。「どういうこと?」と聞いたら全社員が世界中にいるんだそうです。
瀧口:へー!
丸:そのサイトが若い人の感性で作られていてすごく面白くて。僕、逆にそこにお金を払うから記事を書いてほしいと言っちゃいました。彼らはお金が欲しいなんて一言も言ってないんですけど。面白いじゃないですか。
瀧口:部活動みたいですね。
丸:そう。部活動の延長でやっているんです。
原:世界規模でやっているんですね。
丸:"競合他社現る!"ですよ。
原:やばいですね。
瀧口:フットワークの軽さがすごいですね。
丸:やばいです。でも彼らはそれが当たり前なんです。もうそろそろ僕引退かな、なんて(笑)。
瀧口:早いです(笑)。
丸:「うちの会社もそうだぜ」って対抗しました。うちもマレーシアとシンガポールとイギリスとアメリカにあるんだよって。「うちに来ない?」って言いました。そうしたら今度日本に来た時に本社見たいっていうので。その子欲しいです。
原:欲しいですね(笑)。
丸:楽しそうにやっていましたよ。記事もすごく立派。足りない部分は全部調べて、リンクも貼って。勝てないですよね(笑)。
瀧口:すごいですね。性別や年齢の差など全てを超えている感じが面白いです。
丸:情報社会が終わってこれから知識社会になっていくわけですよね。情報が当たり前になっている。競合は中学生高校生ですよ。彼らの柔らかい感性で知識を集め始めたら、僕らより知識を持ってます。僕らのサイエンスキャッスルに来たのは地元の記者さんとその子だけです。日経さんは来てくれてなかったですね(笑)。
瀧口:あら!(笑)
原:感度が低いってことかな(笑)。
丸:でもよくキャッチしたなって思います。その子の感性で面白いと思ったから来たんでしょうね。いろいろ調べたらぶつかって、研究者の人にインタビューしたらリバネスを知っていて、みたいな、そんな繋がりで。
瀧口:まさに記者の動きですね。