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瀧口:こちらの「リアルテックファンド」というのは普通のファンドとは違うんですか?

丸:全然違いますね。もともとこのユーグレナという会社は2005年に出雲(充)と鈴木(健吾)という東大の後輩と一緒に僕も技術顧問として立ち上げたんですが、元々僕は藻類(そうるい)の研究者なので。

瀧口:藻類。藻ですか。

丸:ユーグレナという藻の仲間で最も栄養素の高いものを作っていて。2005年に「バングラデシュで栄養素がなくて困ってるんですよ」と。僕と鈴木は博士なので、論文ばかり書いてないでなんとかして解決してくれと。二人で藻類を研究していて、NASAでも研究されているんですけど、栄養素がたくさんあって。発展途上国でも栽培ができるような藻なんです。池の水が緑になるのも藻ですからね。それを培養して届けようというのがユーグレナという会社のミドリムシのプロジェクト。「これで地球の栄養問題が解決したり、環境問題が解決するなら俺も参加するよ」という形で立ち上げたんです。そして出雲社長がすごいんですね。ちゃんとこれをビジネスにして10年で東証一部上場。すごいなと思います。

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瀧口:今時価総額は1000億円規模なんですってね。

丸:そしてリアルテックファンドというのは、出雲社長と10年で上場するという約束をしたんですけど、10年経ったらまた新しいことをやろうと決めていたんです。それが何なのか10年前はわからないじゃないですか。もう一回ユーグレナのミドリムシみたいなことをしないと「僕らだけがうまくいって終わり、じゃダメだよね」と。

もっとモノづくりで世の中の課題を解決する会社を作ろうとする人が出てくるんじゃないかということで、世の中をリアルに課題解決できるテクノロジーを中心として支援するファンド、「リアルテックファンド」を作りました。これがまた不思議な縁で、僕が十何年前にファンドなんてやるなんてまったく思いもしませんでした。だって知らないですもん、金融用語。"きん"の字が細菌の"菌"だったら大体わかるんですけど(笑)。

原:通常だとスタートアップ業界はITのような短いスパンで価値がぐっと上がるような領域に入りたがるベンチャーキャピタルが非常に多いと思うんです。一方でハードウエアの領域も量産化ですごくお金がかかるので、みんなが嫌がる領域ですよね。そういう意味ではここに出ているスタートアップの方って長いですよね。

丸:長いです。20年とかありますね。

瀧口:20年!長いですね。

丸:でもモノづくりをやっていると20年って普通ですね。例えば大手だと東レさんが持っている水をきれいにするようなものだと20年間研究してようやく市場に出て、それが1000億円、2000億円というレベルでパッと開くわけです。時間がかかるから儲からないではなくて、時間がかかるから僕らが必要。さっきも言ったように儲かるからやるわけじゃなくて、自分たちが必要だからやりたい。実は研究者が一番欲しいものって富とか名声じゃなくて、必要とされること。なので僕ら研究者はポスドク問題が一番問題で、必要とされなくなった時に本当に悲しい気持ちになってしまうんです。必要とされているなら自分の人生をかけたいというのが研究者の魂ですね。

瀧口:それぞれどんなことをやっている企業なのかご説明いただきたいんですが、こちらは台風発電。台風で発電する、ということですか。

丸:そうですね。ドラえもんみたいな会社ですね。

原:発想がすごいですよね。

丸:台風で発電はしないですよね(笑)。

瀧口:と思っちゃいますよね(笑)。

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丸:でも台風って一番エネルギーがあるじゃないですか。原発事故の問題もあって、もっとクリーンエネルギーをというのが今の世の中の流れですよね。風をどうやってうまく使おうかということで、一番風があるのが台風。でも台風で普通の発電機を使ったらどうなると思いますか?すぐ壊れちゃうんです。でも一番エネルギーがあるからそれに耐えられる風車を作れば世の中のエネルギー問題は解決するって言うんです。最初に聞いた時は「は?」と思いました。

(センターオブガレージにて)

瀧口:奥に何かありますね。こちらはオブジェですか?

丸:オブジェではなく、台風発電のプロトタイプです。

瀧口:試作品ですか?

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丸:そうです。これは羽がないんです。この円筒が動くとカーブボールと一緒でマグナス力(りょく)というのが生まれて、風が当たると全体が大き動き始めます。円筒が回転してそこに風が当たると下の軸が動いて発電する仕組みです。

原:風が吹くと円筒がクルクル回るんですか?

丸:この円筒を非常に低電力のモーターで回すんです。そうすると当たった時に巻き込む力が出て逆方向には巻き込まないので不平等な力が生まれて下に揚力がかかるんです。マグナス力というのは教科書にも出ていますが、マグナス力を使った初めての風力発電機です。これが面白いのは風が強くなる時に円筒の回転をゆっくりにすると暴走しないんです。プロペラだと止められなくなってしまうのですが、こちらの場合はゆっくりしたい時はこの軸の回転を遅くすればゆっくり動く。この前台風が来た時にやってみましたが、ずっとゆっくりと発電していました。

丸:まさに町工場と一緒にプロトタイプを一度作って、それをどんどん大きくして石垣島に10kWの試作品が立ちました。たった4年くらいです。