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見出しの罠――果たしてこれは信頼できる情報なのか

――ネットニュースについてもお伺いしたいです。池上さんはインターネットでニュースをご覧になりますか?

ニュースをいちはやく知るという意味では、見ています。じっくりと読んでみると、見出しと内容が違うことが時々あります。見出しは読んでもらおうとデフォルメしているけれど、よく読むとニュアンスが違う。メディア業界では「釣り」や「盛る」と言われますが、危険なことですね。

――ニュースはネットで十分だという考えには異議があるとのことですが、なぜですか?

例えば、新聞は「ニュースを読む」ですが、ネットは「ニュースを見る」と言いますよね。おそらくネットは長時間をかけて丁寧に読んでいくことがないので、見出しだけをパッと見て「こんな話か」と思い込んでしまう。だから「このニュースはネットで見たから知っている」と言う方に内容を尋ねると、きちんと説明できなかったり、漠然とした知識しかないことは多いと思います。でも、ちゃんと知っていただきたい。そのためには時間をかけていくつもの新聞を読むことは大事です。

――池上さんは13紙の新聞を、少なくとも見出しだけでも読み比べているそうですね。ネットでも読み比べをした方がいいでしょうか。また、比べる時に注目するところは?

ネットで読み比べるとなると、どのニュースに注目するかはなかなか難しいですよね。新聞社のWEBサイトもあれば、ネットニュース専門の会社が運営するメディアもあるし、偏った思い込みでまとめられた個人サイトもある。受け手は「これはいったいどこが発信したニュースなのか」「果たして信頼できるのか」と気をつけなければならないのではないでしょうか。

――情報の正しさについては「校閲」の目がどれほど入っているかも重要でしょう。

ネットでは、個人が思いつきで書いたことさえもそのまま発信されますよね。そうすると事実関係が間違っていたり、誤字脱字がたくさんあったりします。

本や新聞、ちゃんとしたテレビ番組は、最初に書かれたり収録されたりしたものを、さらにチェックをする人が複数人います。そこで「ここは間違ってるよ」や「ここはやりなおさなければ」という修正が必ず出てきます。

私も本を書く時には、いろいろと調べて「これで正しいだろう」と思って書いていますが、出版社の校閲さんから「この部分は事実関係が違うのでは?」とか「ここの数字が間違っていますよ」とたくさんの指摘を受けるんです。それによって、より正確な内容に近づきます。

だからといって完全に正確とは言えないんですよ。出版した後で実は間違っているということもある。事実を確保するのは、本当に難しいんです。

――新聞では100名単位でチェックするという具体的な数字を読んで、驚きました。

新聞社では「早刷(はやずり)」の前に「小刷(こずり)」があって、それぞれの記事を印刷した試し刷りが書いた記者に配られるんですよ。それをチェックしてもらい、さらに「大刷(おおずり)」では、非常に大きな紙面に印刷したものを、何人もが目を皿のようにして見るわけです。それにも基づいて修正し、ようやく「早版」が印刷されて配られます。それをまた新聞記者たちがみんなで確認し、発見された修正を反映して「遅版」を印刷する。そうなるとかなり正確ですが、それでも時々、間違いが見みつかります。

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気づく力、知る力を鍛える方法

――それほど入念に情報がチェックされているということまでは、一読者では想像が及びません。だからこそ「知る力」が必要になるのでしょうが、「知る力」を鍛える方法は?

たったひとつの情報源だけで「そうなんだ」とすぐ信じてしまうということは、それによって流されてしまったり、間違った判断をしてしまったりします。そうならないように、何か情報があった時には「同じニュースについて他のメディアはどう伝えているんだろう」と調べてみたり、ネットの速報ニュースの後に新聞やテレビをチェックしてみてください。すると「あれ?ニュアンスが違うぞ」と気づくことがあります。常日頃からさまざまな媒体を見比べていると、次第に、何が正しいのか、何が危ういのかがわかるようになります。ぜひそうして「知る力」を身につけていただきたいですね。

――池上さんは「今のニュースを理解するためには、現代史を知るといい」ともおっしゃっています。今『池上彰の現代史を歩く』という番組で様々なテーマについて解説されていますが、なぜ現代史が重要なのでしょう?

たとえば、ヨーロッパで東西冷戦(1947~1991年)が終わったことによって、ヨーロッパがひとつの大きなマーケットになりました。それがイギリスのEU離脱に繋がっています。けれども今の若い人たちにとっては、東西冷戦の崩壊はすでに歴史になっています。私くらいの世代ですと、ついみんなが知っていることだと思ってしまって「東西冷戦の時にね」「ベルリンの壁が崩壊して以降は」と言いがちなのですが、ベルリンの壁崩壊は30年前の自分が産まれる前のことですよね。それでは説明されないとわかりません。

3月31日(日)の放送は「緊急取材!なぜ?疑問だらけの韓国」です。今、とりわけ日韓関係は険悪な状態になっていますよね。私たちからすると「韓国はなぜこんな反応をするんだろう?」と疑問に思うことはたくさんあるでしょう。でも韓国のちょっと前の歴史を知ると「ああ、こういうことあるから韓国の人はこんな反応をするんだな」とわかります。日本側が納得できるかどうかはともかくとして、相手の内在的な論理が理解できると、ではどう対応していけばいいのかを考えることができます。

いろんな国と付き合うと、相手の国が理不尽なことを言ってくるように思えることもあります。けれど、その背景には何があるのかを知っていると「相手にはこういう歴史があるから今このような発言をしているんだな」と理解ができる。知ると知らないとでは大きな違いがあるんです。

このように、今、報道されているニュースがなぜそうなのかを理解するためには、ちょっとその前にさかのぼった歴史を知ることが必要です。当時、何があったのかを知り、ニュースをよく理解し、そのうえでどうしたらいいかを考えるためにも、ぜひご覧いただきたいです。

池上のインタビュー動画はパラビジネスで見ることができる。また、「池上彰の現代史を歩く」はパラビで見逃し配信中。

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(C)Paravi
『池上彰の現代史を歩く』場面写真 (C)テレビ東京
書影 (C)集英社