奥平:みんなが日本に注目してすごくやりがいがある中で、でも2年で辞められたわけですよね。ここがすごく面白いんですが、なんで2年で辞めたんですか?
佐藤:中に入ってみて、社会的にも価値がある大きな仕事やプロジェクトを、自分のコントロールできる範囲の中で実現するというのが理想だとすると、結局二つのルートに分岐することは変わらないなということに気付いたからなんです。一つは自分がコントロールできるけど(プロジェクトは)小さい、それを大きくしていくという順序。もう一つは自分のコントロールはきかないけど、もともと大きなものから自分のコントロールの幅を広げていくというもの。その二つのルートしかなくて。
僕は自分で事業をやっている時は前者のルートから山を登ろうとしていて、結構時間がかかるなと思いGoogleに来たわけですけど、Googleはたしかにとても大きいけど自分のコントロールはすごく限られた範囲で。冷静に考えれば当たり前なんですが、社会経験がなかったので。
Googleに来ればなんでもできるんじゃないかと思っていましたが、自分のコントロールできる幅を広げていくにはそれなりに時間もかかるし、一部運も必要だったり、いろいろな変数があって。自分の努力だけで正しく山を登れるかどうかも分からなかったので、少なくとも前者のルートは自分が超頑張れば、なんとかその大きさを大きくすることはできるかもしれない。じゃあやっぱりもう一回(前者に)トライしようかなと思って、2年後の2010年にまた一人になりました。
奥平:今でこそリアルタイムビッディングって仕組みはネット広告でよくも悪くも話題になりますけど、(佐藤さんは)先駆けの先駆けってことですよね。
佐藤:そうですね。日本では広告枠のリアルタイム取引という技術を初めて商用化したということになります。
瀧口:最初から手ごたえはあったんですか?
佐藤:はい。コンシューマー向けのビジネスよりはエンタープライズ向けのビジネスなので、合理的な意思決定に基づいて技術が採用されますし、北米でもすでに経済合理性があると認められてすでに市場が立ち上がっているタイミングだったんですね。これが日本の顧客に受け入れられないという理由があったわけではないので、そんなに変なこけ方はしないだろうなと思っていました。
奥平:当然アメリカで成功した技術があったら、日本のインターネットの歴史を振り返ると(よくあったように)、日本で同じようなことをやっていても資本力がある人たちが外から来て、全て支配されてしまうんじゃないかと。過去の経験ではそういうことがありましたけど、そのあたりはどうお考えでしたか?
奥平:最初の段階は技術ドリブンで、技術から入るものはそもそも作るものが難しいので、水平分業になるだろうと思っていて。その技術専門の会社ができて、まずそこが一定のポジションをとると。
成熟してくると隣接している資本力があるプレイヤーに垂直統合されていくというのが世の常なので、逆にいうと我々も最初からIPOを取得して持続的な成長を作っていく会社にするというよりは、技術でエントリーすれば誰か大きい会社が欲しがるだろうと。なのでM&Aになるだろうと思って会社を立ち上げたという感じですね。
瀧口:結果、IPOされたわけですよね。
佐藤:そうです。
瀧口:その後、hey社ができるところがまた飛躍がある感じがしますが、どういう心境の変化があったんですか?
佐藤:一つは広告術の進化の先に、どういうものがあるのかなと考えるじゃないですか。ターゲッティングの精度を向上させるとか、いろいろなデータを使って最先端の機械学習の研究成果が見込まれているわけですよね。それでやれることというのも長い時間見てみて、やっぱりこの延長上にもう一回すごい大きな革新が次あるかというと、またちょっと違うんじゃないかと思い始めて。かたやTwitterやインスタグラムの中でファンを持っているような方々が直接顧客と接点を持っていて。
広告ってメディアという第三者を介して集客をしてくる仕組みだと思うんですけど、顧客と直接つながっていて、直接の商取引が実現しているということがたくさん起こり始めていて。そういう関係の中に広告的なものや、マーケティング的な要素が埋め込まれているので、そうするとメディアを介した情報流通、広告枠を買って情報流通させる、という在り方とまた違うところにもしかしたら答えがあるのもかもしれない、と思って最初に興味を持ち始めました。
奥平:今2018年12月で、今年は相当広告に対する逆風が強まった年というところもありまして、多分今おっしゃったターゲッティングの相当先を行っているのがFacebookで、これだけプライバシー問題含めて批判にさらされて、特にヨーロッパではユーザー離れの話もあって。今だと納得感がある話なんですけど、1年くらい前に同じような、ある種広告の限界が見えたわけですよね。
佐藤:このあたりの話を考え始めたのは上場した前後ですね。
奥平:結構早かったんですね。
佐藤:そうですね。2014年夏頃です。
奥平:当時周りでもネット広告に限界が来るということをおっしゃっている方は、おそらく誰もいませんでしたよね。
佐藤:そのタイミングはモバイル広告が出始めて、2013年の夏頃からぐっと伸び始めたので、真っ盛りというか。みんなそこに集中している時期だったと思いますね。
奥平:(佐藤さんは)ちょっと違った見方をされるのが面白いなと思うんですが、例えばそういう思考の癖があるのか、その時たまたまきっかけがあったのか。どう分析されますか?
佐藤:これは経営でも景気でも全く同じですけど、常にサイクルがあるわけで。良い時があるということは次に悪いことが起こるので、そういう考え方の癖はついていると思います。良い時に喜びまくることができない。