瀧口:そんな中2015年「ハコベル」がスタートしましたけど。
奥平:印刷から物流と随分違う方向に来ましたね。
松本:当社のビジョンは「仕組みを変えれば世界はもっとよくなる」というビジョンで、印刷って入ってないんですよね。
瀧口:そうですね。
松本:いろいろな産業のインフラになるようなプラットフォームを作っていきたいというところがありまして、印刷だけをしていると印刷の会社になってしまうんですが、印刷と物流をしているとITの会社としてみてくれる。そういったチャンスのある領域を探していまして。なぜ印刷に入ったかというと、業界としては当時6兆円あって、大手二社で3兆円売り上げがあってそのほかに3万社印刷会社があって多重下請け構造になっている。
物流業界も実は同じような構造にあって、14兆円のトラック物流の市場があって、上位10社で7兆円持っていて、6万3千社が下請けで存在しているんですね。結構ピラミッド構造になっていて、印刷も物流も業界構造が似ているんですね。ですから同じように多重下請けになっている一番下の人たちをネットワークして、仮想的に巨大な印刷工場、巨大な物流会社を作って、お客さんがダイレクトに使えるようにする。従業員5人、10人の小さな運送会社でも、プラットフォームを介することで、ブランドの安心、品質の安心、支払いの安心が保証されるような仕組みを作っていけるとインフラになるのではないかと。業界の特徴が似ていたので物流を始めました。
奥平:ある種ネットで場を作って、必要な人と提供できる人のマッチングをさせるというビジネスモデルは、おそらくネットが普及してから20年間ものすごい数が出てきて、九割九分失敗してると思うのですが、そこは何が他と違ったのでしょうか。
松本:プラットフォームって多くの人たちは、売り手と買い手をつなぐ場という、場所の話をしていると思うのですが、我々は売り手と買い手を含めたデザインだと考えているんですね。我々で言うと印刷会社さんの生産性を上げるためにチームが現地に行って、ラインを作り直して、ここ3歩じゃなくて2歩だよ、という指示を出して、1時間あたり1万枚刷れているところを目標3万枚にしましょうと。毎月ストップウォッチを持って生産性を上げるサポートをしていたり、紙を複数の印刷会社さんの需要をまとめて共同購買していくというような、印刷会社さんをエンパワーメントする取り組みをしているんですね。それによって1時間あたり1万枚生産できた時と、3万枚生産できた時は同じ人件費でもコストが三分の一になるので。
松本:逆にお客さんに対してはデザインができない人が簡単にデザインできるようなテンプレートとシステムを用意したり、大きな会社が使いやすいようなシステムを提供したり。単純に取引のマッチングだけではなくて、お客さんをエンパワーメントする、サプライヤーをエンパワーメントする。これが99%の失敗した会社と1%のうまくいった我々のような会社の違いではないでしょうか。
奥平:考え方としては、中堅中小のプレイヤーがたくさんいるんでしょうけど、それをまとめてバーチャルにつないで一つの会社として伸ばしていく、そんなマインドセットに近いわけですか?
松本:そうですね。現場は非常に重視していて、とにかく現場で何が起きているかを徹底的に観察して解決していくと。そこは製造業的な思考が非常に強いです。
瀧口:だから採用でも製造業の方を積極的に採用しているんでしょうか。
松本:そうですね。日本の製造業はとてもレベルが高くて世界のトップクラスで、ただそれはあくまで家電の話で。印刷や物流というのはトップクラスではないんですね。そこに対して世界トップクラスの製造現場のノウハウを入れて改善していくということで、ここも生産性を上げていく。ITのプラットフォームって普通こういった部分はあまり気にしないんですが。
瀧口:リアルな部分の作りこみということですね。
松本:おっしゃる通りです。
瀧口:例えばメルカリさんも宅配はヤマト運輸と提携してリアルな部分の作りこみがしっかりしているなという印象が強いんですが、やはりそういうところが差を作っていくということですか。
松本:そうだと思いますね。