奥平:この後のお話もお伺いしたいのですが、一度佐藤さんのお話も伺いたいと思います。

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瀧口:それでは佐藤さんの経歴をご覧いただきましょう。佐藤さんは富士フイルムに長年勤められて、90年代以降はデジカメの登場でフィルムが必要なくなってしまう時代をまさに目の当たりにされました。佐藤さん自身は、富士フイルムの中ではどういったお仕事をされていたんですか?

奥平:理系なので研究開発室でしょうか。

佐藤:ずっと研究開発です。

奥平:そこから起業されるというのはどういった経緯になるのでしょうか?

佐藤:いろいろな経緯があったのですが、私は友人が結構多くて。63歳過ぎた頃から、もうそろそろ富士フイルムいいんじゃないのか、といくつかの大学や別の会社の研究所長として来てほしいとお誘いをいただいたんです。でもあまり乗り気ではなく、逆に今まで眠っていたいわゆる経営への思いがむくむくと湧いてきました。

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佐藤:起業に至った一番の点は、私の部下がNEDOに出向しておりまして。彼から「今度NEDOで、非常に面白いスタートアップを支援するプロジェクトがスタートするから、佐藤さん応募しなさいよ」と言われて、その公募の説明会に行ったんです。そしたらもう熱気ムンムンで、若い人から私よりもっとお年寄りの方もいまして、こんなにたくさん起業しようとしている人がいることにびっくりしました。それで結果的に競争率30倍だったんですが、非常に運よく通ったんです。

奥平:その時はどういうアイデアで応募されたんですか?もうこの白髪を黒くというアイデアがあったんですか?

佐藤:これはまだです。手軽と言っては変ですが、早く商品化できる題材を探しました。

奥平:ナノ技術というのは、もともとなじみがあったのですか?

佐藤:はい。私と一緒に立ち上げた私の元部下が、そういう技術を培っておりまして。それも元をたどると大手自動車メーカーさんの塗料開発でした。その塗料開発にナノ技術を使おうということで、それがスタートでした。

奥平:最初は車に色を付けていたものが、今は髪の毛に色を付けているということですね(笑)。

瀧口:その植物由来の成分を使おうと思われたのは、どういったきっかけがあったんですか?

佐藤:これは非常に明快な私の考えがあります。私の専門は有機合成でございまして、43年ぐらいやっています。ところが有機合成はやはり限界があるんです。

例えば分かりやすい例で言うと抗生物質。これは未だに微生物を使い発酵させて作っているんですが、この発酵を有機合成でやろうとすると1ヶ月も2ヶ月もかかってしまう。それでも得られる量はほんのわずかです。微生物はいとも簡単に、長いものでも1週間で作ってしまう。これはどうしようもないんです。有機合成の限界を60歳になる前くらいから感じ始めていました。

奥平:やはり自然は偉大であるということですね。

佐藤:そうですね。逆に言うと人の知恵は大したことないなと。そういう持論を持つようになりました。

瀧口:森さんも植物を扱われているわけですね。何か共感される部分はありますか?

森:こういう植物というのはすごい力を(持っている)。今おっしゃったようにやはりすごいものがあると思います。

奥平:植物のポテンシャルというのも興味深いのですが、一方起業という観点で見ると、まさに工業との対比とおっしゃいましたが、とりわけインターネットのような世界では時間軸が短いのでお金を繋ぐのが比較的楽というところがあると思います。

一方、森さんのところは大学教授という枠組みを使うことによって、いろんな研究費を活用したと。佐藤さんのところでは、起業されてからお金の問題はいかがでしたか?退職金を使われたのでしょうか?

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佐藤:起業の際に家内と、退職金は一切使わないと約束をしまして。皆さんの血税を使わせていただきました。

奥平:いわゆる補助金などですね。先ほどNEDOのお話がありましたが、NEDOのお金が取れたんですか?

佐藤:はい。

奥平:実際に補助金などの申請をする時に、大企業の研究開発の要職にあったというキャリアが効いた感覚はありましたか?

佐藤:それは否定できないですね。

奥平:そこはもしかしたらシニア起業のいいところかもしれませんね。それまでのトラックレコードがあるわけですから、それを活用できたと。

佐藤:あと弊社の場合は機能化ナノ粒子というプラットフォーム技術があって、それがいろいろなところに展開できそうだというところを、ベンチャーキャピタルの方が敏感に感じ取ったんですね。

奥平:では最初はNEDOからの補助金があって、それをベースにベンチャーキャピタルからお金を調達されたと。これまでに総額ではどれくらいの金額を調達されましたか?

佐藤:最初の2年間でNEDOさんから7,000万円ほどいただきまして、その後ベンチャーキャピタル3社さんから2億1,000万円いただきました。

奥平:なるほど。それはまさにNEDOの補助金が民間の投資を招き寄せるというサイクルになっているので、比較的良いサイクルですよね。

佐藤:ラッキーだったと思います。