瀧口:ではここでタルピオットについてもっと知りたいと思いませんか?

奥平:8200部隊で相当時間を取っておりますが、更に上には上があるということで。

瀧口:先ほどタルピオットについてお話を伺いましたが、ここでイスラエルと中継がつながっています。タルピオットを退役されたばかりのトメール・シュスマンさんにお越しいただきました。タルピオットの教官で副司令官も経験されたということです。

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瀧口:シュスマンさん、タルピオットの3年間のプログラムは毎日どんな生活を送るのですか?

シュスマン:その質問にお答えする前にタルピオットについて少しお話します。タルピオットの目的は科学技術分野でのリーダーを育てることです。(タルピオットは)軍によって運営されていますが軍だけではなく、大学や民間のためのプログラムでもあります。

シュスマン:退役後は技術プログラムのリーダーとなります。とても広い範囲で最先端の技術を学びます。物理や数学、コンピューター科学などを学びます。イスラエル軍の歴史やチームプロジェクトの進め方、国家の安全保障についても学びます。学期の間には軍の教育も受けるので、パラシュートの訓練なども行います。戦車を運転する訓練や潜水艦を見学に行くこともあります。

瀧口:戦車を運転したり、潜水艦を見学したり、本当に何でもできますね。

奥平:スーパーマン教育ですね。

シュスマン:最終的には個々にあった独自の課題やプログラムを与えます。例えば大勢の前で話すのが苦手な人には、何度も話す課題を与えて鍛えます。

瀧口:ありがとうございます。本当にスーパーマンになれるような教育が、国の決まりで受けられるということですね。

奥平:非常にやり甲斐がありそうですが、全員プログラムを完了して学位を取ることができるのでしょうか。

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  瀧口:シュスマンさん、全員が学位を得ることができるのですか?それとも中には辞めてしまう人もいるのでしょうか?

シュスマン:はい。何人かはやめてしまいます。

瀧口:何人かはドロップアウトしてしまうわけですね。これだけ厳しいと仕方がない気もします。シュスマンさんは退役後、何をされているのですか?起業されているのですか?

シュスマン:はい。すでに今二人のタルピオットの卒業生と一緒にスタートアップを始めています。

瀧口:どんなビジネスを始めたのですか?

シュスマン:ヘルスケアの分野でビッグデータを使った事業をしています。タルピオットで多くのことを学びましたが、民間でも学ぶべきことが多くあります。

瀧口:シュスマンさん、ありがとうございました。

奥平:次回はヘルスケアスタートアップの話を聞きたいですね。(タルピオットは)軍事という視点から見るとイメージが偏ってしまいますが、むしろ国家的なタレント養成プログラムと考えてよいわけですね。

おそらく相当の金額を使っているプログラムであって、基本的に軍の延長線上だと(教育が)無料ということですよね。そういうものをごく一部の選ばれた人だけに行うというのは、国民の反応はいかがでしょうか。

ラモト:このプログラムが一番優秀なプログラムですが、他の軍隊に対しても十分な費用が使われていますので、イスラエル人としては、より意味のあるプログラムに投資すればいいと考える人が多いと思います。

奥平:そもそも地政学的にその(軍隊の)部分に対する投資が多いということですね。

ラモト:そうだと思います。

奥平:そこが日本と随分違うところですね。そしてこれは軍事であり教育機関であるということと、軍事予算が非常に大きいので、その使い方に関しては比較的寛容な国民性があると。

ラモト:はい。

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奥平:日本だと一部の優秀な人だけを集中的に教育するというのは受け入れられがたい風潮がありますので、そこは違うなという印象を受けました。

瀧口:コアな能力・才能を育てることで国の存続や発展を実現させようという、国全体の総意に結束感を感じますね。

奥平:地政学的な特性が前提としてあるのでしょうが、そこを上手く生かしていくというのが国家の知恵ですね。

瀧口:イノベーションの源泉を見たという感じがしました。ヨアブ・ラモトさんにはこの後も引き続きお話を伺っていきます。さて次回は、イノベーション大国イスラエルに今日本は何を学ぶべきなのか。そして日本とイスラエルが連携し更なる飛躍を狙えるのか、考えていきます。どうぞお楽しみに。