瀧口:インテルのモービルアイの買収というのはイスラエルの中でどう受け止められているんですか?

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ラモト:これは一番大きなサクセスストーリーだと思います。特に自動車業界に関して面白いのが、イスラエルは全く車を作っていない国です。車を作っていないのに、こういった自動車関係のスタートアップがとても多くあります。

それはイスラエルの代表的な現象だと思います。イスラエルではどういうものを作るかと言うと、車ではなく車をサポートするもの。自動車会社と一緒に組んで、新しい未来の車を作っていくという考え方です。それがイスラエルのスタートアップの発想です。

奥平:自動車業界が多いというのは、自然発生的に皆さん自動車が産業規模的に大きいからやろうということになったのか、公的なフレームワークで自動車にしましょうという働きかけがあったのか、どちらでしょうか。

ラモト:両方だと思います。多くの人が業界としてこれから大きく変わっていくだろうと思っているので、自動車関係でスタートアップを作ろうと思う人が多いですね。あと、例えば自動運転からいうと、10年前は自動車本体、エンジンが一番大切な部分でした。それは今でも同じですが、加えて昔は必要無かったソフトが必要になってきた。例えばモービルアイでいうと、もちろん自動車自体は絶対に必要ですが、他にもいろいろなセンサーやデータ分析の技術が無いと自動運転ができない。ソフトとハードの組み合わせが非常に重要になります。

瀧口:ハードをバージョンアップする仕組みを作ることができるということが、イスラエルのスタートアップの特徴ということですね。

ラモト:そうですね。ハードにつながったソフトですね。

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瀧口:このストアドットに関してはいかがですか。これは確信的な技術だと思いますが。

ラモト:考え方が違うんだと思います。バッテリー自体を変えていこうという考え方で、誰もやらないことを私たちがやろうとしている。本当に成功するかは分かりませんが、考え方としては非常に面白いと思います。

奥平:電気自動車はいろいろな課題がありますが、充電時間は問題になっていて、今のガソリンスタンドが全部充電ステーションに変わったとしても1時間、2時間かかったりしたらパンクしてしまう。

瀧口:前の人が待っていたら2時間待ちということもあり得ますよね。

奥平:家で(充電を)すればいいんじゃないか、ということも言われますけど、じゃあマンションはどうするんだと。(電気自動車には)結構問題があって、もしも本当に5分(で充電)ということが実現したら、世の中一変するかもしれませんね。

ラモト:本当に出来たらすごいと思いますね。

瀧口:続いては、今回ご紹介した二つの会社も含めて、世界が注目するスタートアップ企業がひしめいているイスラエルという国なんですが、どうして世界を引き付ける優秀な企業が生まれているのか、ラモトさんに伺っていきたいと思います。このベースとなる仕組みというのは何か秘密があるのでしょうか。

ラモト:いくつか理由があると思いますが、イスラエルの軍隊に強く関係していると思います。イスラエルの軍隊は8200部隊以外に他の部隊もありますが、(部隊では)教育だけではなく実践的な経験を得ることができます。18歳で入って3年間を軍隊で過ごして、実践的な経験を得て、後に民間での活動に活かせるという仕組みがイスラエルの特徴かと思います。

アメリカの軍隊でもテクノロジーを開発する活動はありますが、アメリカではキャリアの問題があります。20、30年間軍隊に入っていて、そこから新しい活動をするのは遅い。イスラエルの場合は21歳で軍隊を出てから、いろいろな新しいチャンスがあるということです。

瀧口:21歳って本当にまだ若いですね。ベンチャー大国といえばアメリカのシリコンバレーやインドを思い浮かべますが、シリコンバレーやインドに無いイスラエルの強みはどんなところなんでしょうか。

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ラモト:強みと弱みは同じかもしれません。なぜかというと、アメリカから見るとシリコンバレーは世界の中心にあるので、マーケットアクセスが非常に強いです。例えばUberのような会社はテクノロジーも持っていますが、一番強い要素がマーケットアクセスです。ヒューマンネットワークがとても広いので、(Uberは)大きくなってきましたね。

イスラエルは中東の国で、そんなマーケットアクセスやリージョナルマーケットも無いので、高度なテクノロジーにフォーカスしないといけない。あとはパートナーシップですね。日本も含めてアメリカ、ヨーロッパのパートナーを作らないと競争できない。(イスラエルは)最初から高度テクノロジーの開発にフォーカスする会社が非常に多いです。

奥平:技術ドリブンになりやすい環境にあるということですね。

ラモト:そうですね。

瀧口:ラモトさんにはこの後も引き続きお話を伺っていきます。次回は8200部隊とエリート養成機関「タルピオット」について、イスラエルと中継を結んでお送りします。お楽しみに。