日経電子版、日経産業新聞と連動してイノベーティブな技術やベンチャーを深掘りする、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」オリジナル番組の「日経TechLiveX」。PlusParaviでもテキストコンテンツとしてお届けする。

ニューロスペース社の小林孝徳CEOが「スリープテック」を志したのは、自らの睡眠障害の経験があったから。同じ悩みを抱えるビジネスパーソンの眠り改善に向け、これまで数十社の顧客企業にコンサルタントを実施してきた。このほど仮眠の実証実験を行った三菱地所の担当者に、その効果を聞く。スリープテックの有望市場や新たなビジネスの展開の可能性についても議論する。

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瀧口:こんにちは。日経CNBCキャスターの瀧口友里奈です。そして、私と共に司会進行していただくのは、日本経済新聞編集委員の奥平和行さんです。奥平さん、よろしくお願いします。

奥平:よろしくお願いします。

瀧口:この番組はこちらの日経産業新聞、日経電子版と連動して、革新的なテクノロジーや今後成長が見込まれるスタートアップ企業に迫る「日経TechLiveX」です。Paraviのオリジナルコンテンツとしてお届けしています。さて、今回のテーマも前回に引き続き『眠りの悩み 科学で解決"スリープテック"とは?』と題してお届けしていきます。

奥平:今日は後編です。ビジネスパーソンの一人一人が睡眠の質を改善するというお話で、前回は寝ても寝ても眠いとおっしゃっていた瀧口さんでしたが(笑)。

瀧口:そうなんです(笑)。

奥平:今回はスリープテックをビジネスに展開していく可能性について、更に掘り下げていきたいと思います。

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瀧口:前回に引き続きゲストをご紹介します。まずはスリープテックを手掛けるスタートアップ企業、ニューロスペースのCEOでいらっしゃる小林孝徳さんです。ニューロスペースは50社以上の企業と提携し、その社員の睡眠改善などに取り組んでいます。よろしくお願いします。

小林:よろしくお願いします。

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瀧口:そしてもう一方です。三菱地所人事部主事の根神剛さんです。三菱地所で働き方改革を推進。その一環としてニューロスペースと協力し、社員の睡眠改善に取り組んでいます。どうぞよろしくお願いします。

根神:よろしくお願いします。

奥平:前回睡眠解析の技術を伺いましたが、おさらいということでもう一度見せていただきましょうか。

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小林:こちらは非常に高い精度で、かつ簡単に睡眠を可視化できるデバイスです。何も装着する必要がなくマットレスの下に(デバイスを)挿入するだけで、起きた時に睡眠の状態がどうだったかを、スマートフォンで確認することができます。

瀧口:ただマットレスの下に入れるだけというのは手軽ですね。

小林:そうですね。

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瀧口:そうした中で、睡眠の解析と企業への睡眠コンサルティングがビジネスとしてこれからどう発展していくのか、キーワードに沿ってお話を進めていきたいと思います。まずはこちらです。『ありそうでなかった"睡眠コンサル"』。

奥平:まさにありそうでなかったということですが、今回このテーマを取り上げる時に一番伺いたかったことは、なぜビジネスエリアをここにしたのかと。今はフィンテックやアグリテックなどいろいろなテクノロジーがありますが、スリープテックというのは大変珍しいですよね。なぜ睡眠をビジネスにしようと考えられたのでしょうか。

小林:一番のきっかけは私自身が小学校、中学校の頃から睡眠で困っていた経験からです。社会人になってからもいい眠りが取れず、仕事をするにもネガティブな感情になってしまったり、良いパフォーマンスもできない。そこでいろいろと調べてみましたが根本的な解決ができるサービスが世の中になかったので、自分で作るしかないと思い(会社を)立ち上げた次第です。

瀧口:これまでも睡眠をテーマに起業する方もゼロではなかったと思いますが、どういったところで他の企業と差別化されていますか?

小林:やはり自社のコアテクノロジーを持っている、自社で開発しているというのが最大の特長になると思います。これまでも寝具店や布団などはたくさんありましたが。

奥平:「なんとかベッド」のようなものですね。イメージできます。

瀧口:先日ニューロスペースにお邪魔させていただきましたが、社員数はまだ少なくていらっしゃいますよね。

小林:そうですね。約10名です。

瀧口:まさにスタートアップというところですが、このニューロスペースさん、数々の大企業を顧客に持っていらっしゃいます。こちらを見てください。

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奥平:有名なロゴがたくさんありますね。

瀧口:この中に日経のロゴもありますね(笑)。

奥平:そこにいきますか(笑)。日経が大企業か分からないですが、日経新聞も一応ありますね。日経とは何をされたんですか。

小林:不規則な勤務体系の中で良い眠りをどうやったら取れるのかというご相談がやはり大きかったですね。

奥平:ちなみにここで聞くのも変ですが、弊社は本格導入に至りそうですかね。

小林:(日経は)本格導入というか、何度か取り組みをさせていただいた感じです。

奥平:個人的な話をしてしまってすみません(笑)。他にもDeNAさんのような比較的新しい企業やJRさん、三菱地所さん。(三菱地所の)ライバル会社もありますね(笑)。

瀧口:各社が(ニューロスペースに)注目されていらっしゃるきっかけは何かあったんでしょうか。

小林:睡眠というところに関しては、最近健康経営や働き方改革を国が進める中、従業員の健康を企業がしっかりサポートしていかなければならないというところですが、睡眠は今までソリューションがありませんでした。我々はそれを開発して企業さんに導入していただき、そこから市場が広がってきています。

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瀧口:大企業の方々に注目されるようなきっかけは何かありましたか?

小林:一番最初に吉野家さんに導入していただいたことです。

奥平:牛丼の吉野家ですね。

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小林:あるビジネスプラングランプリにプレゼンをした際に、河村社長がいらっしゃいました。河村社長自身アルバイトから吉野家に入られて、ホールディングスの社長になられた方ですが、ご自身が睡眠で困っていたので、私の睡眠のソリューションのお話をしたところ、これは(吉野家の)全店長が抱えている悩みでもあるということで、導入していただいたということがきっかけです。

奥平:吉野家が最初のお客さんになったというわけですね。

小林:はい。2016年3月に導入していただいて、そこから吉野家が使っている睡眠研修プログラムは何だ、ということになり、物流企業やIT企業などからの問い合わせが増えていきました。

奥平:スタートアップにとって実績がなく、かつ先例があまりない分野だと最初のお客さんを見つけるのが一番大きなハードルだと思いますが、ビジネスコンテストで河村社長に会われたことは、ある意味幸運だったと言えますね。

小林:そうですね。

奥平:根神さんのところはどういう経緯でニューロスペースさんをお知りになったのでしょうか。

根神:我々は数年前から会社として健康経営を推し進めてきました。その中でやはり基本的な生活習慣である睡眠や運動、食事を改善することが大事だと考えた時に、なかなか睡眠を手掛けている会社さんは少なく、調べていく中でニューロスペースさんに出会いました。

奥平:睡眠の分野の会社を探していらっしゃったのですか?

根神:そうですね。当社の中で考えてもそこは素人ですので、そこは外部の知識を借りようと思った次第です。

奥平:たしかに生活改善の中でも食事の改善の提案や、健康診断で星が付くと呼ばれたり、運動しなさいと言われたりはしますが、睡眠はこれまでなかったですよね。

根神:私の会社でも睡眠を取り扱ったのはここ数年だと思います。

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瀧口:そして、こちらのロゴは何のロゴでしょうか。

奥平:「健康経営優良法人」と書かれていますね。

根神:経済産業省から健康経営が優良な会社に送られるということで、当社もおかげさまで認定をいただいております。

奥平:認定の背景には睡眠改善もあるということですか。

根神:そうですね。睡眠改善を含めたいろいろな取り組みを評価していただいています。

瀧口:そもそもですが、昔から健康経営というのは言われていたのではないかと思いますが、今改めて取り組まれようと思われたきっかけは何かあるんですか?

根神:働き方改革という大きな流れの中で、社員が健康に働くことが企業の価値を発揮するのに重要なのではないか、というところに企業側の視点が向いてきたのかなと思います。

奥平:少し意地悪な質問になりますが、(健康経営は)スローガンとしては非常に良いと思うんですよね。しかし実際のところ現場は期末で忙しい、締め切りに間に合わない、というような問題があるかと思います。そこは何らかの仕組みや経営陣の意志で浸透させようと努力をされているのですか?

根神:そうですね。今おっしゃっていただいたように、なかなか急に変わるものではないと思っておりますので、会社としてはこういうものが大事だと言い続けるしかないかなと思っております。

瀧口:ニューロスペースさんのお話に戻ります。ここ数年テクノロジー面でも大きな飛躍があったと伺っておりますが、具体的にはどのようなことがあったんでしょうか?

小林:一番大きなことは弊社に技術者が入ったことです。

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小林:一番左にいる佐藤というものですが、もともと筑波大学、テキサス大学で睡眠の基礎研究をしていました。2016年に睡眠と覚醒の制御に関わる特定の遺伝子が二つ見つかったという論文が出たんですが、そこで約1万匹のマウスの大規模スクリーニングするプラットフォームを開発したのも彼です。今度は人間を解析するシステムを開発しようということで、2017年6月に入社し、テクノロジーベンチャーへ変わっていったというところが大きかったです。

瀧口:CTOとして迎えられたということですね。

奥平:それまでの企業に対するコンサルティングやフィールドワーク的な作業が、佐藤さんが加入されたことによって技術レベルが高まった、理論づけられたということでしょうか。

小林:はい。これまで企業の健康や睡眠改善についてアナログな形で入っていたのですが、そこにテクノロジーが掛け合わさったことによって、大きなイノベーションが起こったということです。