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瀧口:続いては奥平さんのお薦めも伺いたいと思います。

奥平:私からはこちらです。

瀧口:付箋がいっぱい貼ってありますね(笑)。

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奥平:勉強のために付箋いっぱい貼ってありますが、「デザインされたギャンブル依存症ADDICTION BY DESIGN」(青土社)です。アメリカで、5,6年前に出版された、ニューヨーク大学の文化人類学の先生が書いた本です。ラスベガスのカジノの研究について書かれていますが、平たい言い方をするとギャンブル依存症患者の作られ方という話です。学者らしい緻密な文章と淡々としたトーンで、ゲーム機器を作る会社、カジノの運営企業、依存症になった人などを細かくレポートした本になります。

日本でもカジノ解禁の話が出ているので、その参考になるというのもありますし、面白いと思ったのはゲーム化という意味の「ゲーミフィケーション」という言葉があって、教育でも金融でもいろいろなところにゲーム要素が入ってくるようになりました。至近な話で言うとスマホ中毒という話もあるように、中毒性を高めるというのはサービスを使ってもらう時間を長くするために必要だけどマイナス面もありますよ、と。特に今年はテクノロジーと社会の関係性が問われる年だったので、技術には様々な側面があるということを知る意味でも興味深い一冊でした。

瀧口:なるほど、ありがとうございました。

奥平:そして瀧口さんのお薦めの一冊は?

瀧口:私はこちらです。上下巻に渡る本で「遅刻してくれてありがとう(トーマス・フリードマン著)」(日本経済新聞出版社)です。最初タイトルを見て惹かれたのですが、どういう意味だろうと思いました。普通は友達が遅刻してきたら嫌な気分になりますよね。ですが、この著者は友人が遅刻して現れた時に、遅刻した分、自分の時間ができたと思うんです。普段は、常にパソコンやスマホを見たり、仕事を急いでやらなくてはいけない中、「遅刻してくれたことによって時間ができました、ありがとう」と相手の方に伝えたということです。

奥平:普通は遅刻したら相手の時間を無駄にしたと思いますが、それを逆手に取るわけですね。

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瀧口:スケジュールになかった時間が空いたということで、それほど私たちは加速化した時代に生きているんですね。この作者の方、トーマス・フリードマンは2005年に「フラット化する世界<上・下>」(日本経済新聞社)という本を書いて、ピューリッツァー賞を3度も受賞していらっしゃるコラムニストの方で、非常に筆力に圧倒される一冊でした。

この「遅刻してくれてありがとう」の中では2007年がテクノロジーの世界において分岐点だったと書かれていますが、まさにその年はiPhoneが発表されたり、クラウドコンピューティングを可能にする重要なテクノロジーが開発されたり、ツイッターが出てきたり、ビットコインが開発された、非常に重要な年でした。その中で奥平さん。この時代を生きるために大事なことは何だと思いますか?

奥平:私もこの本を買ったのですが、まだ全部読めてないのでちょっと分からないです。降参します。

瀧口:この本の中で言われているのは、「動的安定」。「静的安定」に対して動き続けながら安定を確保することが大事だと書かれています。例えば自転車はペダルを漕ぐことによって安定するわけですが、同じようにこの時代は動きながら安定を確保しなくてはいけない。つまりは生涯学習が必要だったり、その時代に対応していかなくてはいけないという話ですが、下巻になると、その話がさらに発展します。その「動的安定」を再現しているものは、まさに母なる自然であると。地球は自然な新陳代謝や自然な淘汰がありながらバージョンアップしてきた最たる例じゃないかという話まで拡大していく、大変壮大な話です。

私自身、毎日流れるように来るニュースを伝える中で、ゆっくり立ち止まって考える時間がなかなか取れないなと思ったところにこの本に出会い、立ち止まる時間をくれてありがとう、と思いました。夏休みは皆さんにとっても立ち止まる良い機会だと思いますので、そんな時に読んでほしい一冊です。

奥平:本って面白いですよね。それぞれの本の内容も興味深いんですけど、選んだ人の問題意識が現れる気がします。

瀧口:同じ本を読んだとしても、全然違うところが面白いと思うんでしょうね。

奥平:私も何冊か興味深いのがあったので、夏の課題図書にしたいと思いました。

瀧口:そして重森さん、ありがとうございました。

奥平:何かご興味持たれた本ありましたか?

重森:最後の『遅刻してくれてありがとう』はぜひ読んでみたいと思いました。やはりこちらにいると日本から離れて一歩引いて考えることが多いので、夏休みは大局観を持って考える時間にしたいと思いますし、こちらのベンチャーキャピタルやスタートアップと話をしていると、意外と皆さん本を読んでるんですよね。ネットの情報だけでなくて、しっかり本を読もうと改めて思いました。

瀧口:ありがとうございました。次回は「眠りの悩みを科学で解決。スリープテックとは」と題してお届けします。どうぞお楽しみに。