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(中村友哉・アクセルスペースCEO)

中村:私がお薦めするのは佐藤靖さんの「NASAを築いた人と技術」(東京大学出版会)です。NASAというのは設立当初からとてもスマートに衛星やロケットを開発してきたと思われている方が多いと思いますが、実はそうではなく、現場の技術者と、複雑なシステムを組み立てていくシステム工学との考え方の違いや衝突があって、どう折り合いをつけながら複雑な大きなシステムを作っていくのかということが書かれています。これは技術史ですが、それぞれの立場の人から見たせめぎ合いが克明に記されていて、非常にエキサイティングです。NASAにもこういった組織内の葛藤があり、大きなシステムを作れるようになったんだなと、非常に感心しましたし、新たな発見を得られる面白い本だなと思います。

技術はどこに宿るのかということは大事なことで、システム工学というものはどの技術者がやっても同じ結果が得られるということを求められますが、脱人格的とこの本では書かれていて、それが大事なのか。または属人的なもので、人が関与するからこそ良いものができるのか。そういった文化の衝突が克明に書かれているので、興味がある方には非常にお薦めです。

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(鎌田富久・Tomy K代表)

鎌田:私のお薦めの一冊はこちらです。インテルの創業者の一人で元社長のアンドリュー・S・グローブさんの「パラノイアだけが生き残る」(日経BP社)。もともとこの本は随分前にアメリカで原書が出ていまして、こちらは99年に出た元の本です。『Only The Paranoid survive』。こちらを読み非常に共感して、ボロボロになるまで読みました。過去に日本語訳も出ましたが昨年復刻版が出版され、さらに読みやすくなっているのでお薦めです。

パラノイアというのはとても細かいことを気にする人、偏執狂という意味です。生き残るというのは、もともとインテルの主力事業がメモリーだったのですが、日本企業が台頭したためにそこから撤退してCPUに移っていく時期がありました。そういった大きな「戦略転換点」と本書の中では呼んでいますが、徐々に忍び寄ってくる大きな変化を、経営者や個人がいかに素早く察知してどう乗り越えていくのかということを解説した本になります。

本書の中で、けた違いの大きな変化という意味で「10X」という言葉がよく出てくるのですが、ちょうど日本でもAIやブロックチェーンやロボットなどが出てきたことによって、ちょうど大きな「戦略変換点」が迫ってきていると思っています。個人でも人工知能やロボットが仕事を奪うという話もありますので、そういった変化の時期にどうやって自分らしさを見つけるかというヒントになるのではないかと思います。

奥平:私は以前インテルの担当をしたことがあるので、今の鎌田さんの話は懐かしく聞きました。こちらはしばらく前の日経産業新聞で「インテル50年」と書かれていますが、インテルは7月18日に50年を迎えたんですね。この「パラノイアだけが生き残る」の著者のアンドリュー・グローブさんは第三代目社長で、インテルの中興の祖と言われている方です。今お話のあった「10X」と言う言葉はいまだにシリコンバレーで一般的に使われていて、シリコンバレーの礎を作った一人です。改めて読んでみたいと思いました。

瀧口:なるほど。そしてこの後は私たちのお薦め本を紹介させていただきたいと思いますが、その前に。

奥平:シリコンバレーと言えばこの方を忘れてはいけない。

瀧口:重森さん。

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(重森泰平・日本経済新聞シリコンバレー支局事業開発担当ゼネラルマネージャー)

重森:こんにちは。

奥平:よろしくお願いします。

瀧口:重森さんのお薦め本について教えてください。

重森:かなり実務的な本ですが、せっかくなのでシリコンバレーらしいものにしてみました。インテルやGoogleも初期のころから使っているOKRという目標管理のための方法論について書いた本「OKR(クリスティーナ・ウォドキー著)」です。Googleは巨大企業になっても、スタートアップのようにスピードを落とさず仕事を進めるための様々な工夫をしていることで知られていますが、OKRはその中核になる取り組みの一つです。他にも大小様々なシリコンバレーの企業が採用しています。

OKRというのは「Objective and Key Results」の略で、Objectiveというのは目標です。目標があって、それを達成する度合いを測るためのKeyになるResult、成果指標をいくつか設定して、今このチームはどこを目指していて、何のためにやっているのか、ということを分かりやすく示すやり方です。組織が大きくなると、今していることが何なのか分からなくなることも多くなりますが、そういったことを防ぐための仕組みです。

実は私も昔、会社のチームでこの方法を試したことがあります。日経電子版をどうしたら伸ばすことができるか、という大きな目標があって、それに対してアプリで何をするのか、マーケティング戦略で何をするか、など分解して分かりやすく目標を作って、みんなで同じ方向を向く取り組みでした。残念ながら失敗してしまいましたが、実際に本を読むと最初は絶対失敗すると書いてあったので、ほっとしました。この本を読み返してまたもう一度試してみようと思っています。

瀧口:ありがとうございます。

奥平:私も読みましたが、ハウツー本でありながら、途中小説仕立てになっていて楽しく読めますよね。

重森:そうですね。シリコンバレーにありそうなスタートアップが題材になっていますので、非常に感情移入しやすいと思います。

奥平:シリコンバレースタートアップのマネジメント疑似体験ができるような感じもあります。ありがとうございました。