瀧口:(学生を)押し上げていくための手段として減税がいいのではないかということですね。では松尾先生にもご提案いただいた内容についてお伺いしたいと思います。

奥平:まず「熟練の眼のスコア化」。これは具体的にどういうことを指すのでしょうか。

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松尾:これからディープラーニングの技術をベースにして、いろいろな産業領域に覇者が現れると思っています。それがどういった競争力を担っているのか、どういう独占寡占の形態が築かれるのかというのは、まだわかりません。そこが分かると(戦略を)組み立てやすいと思うのですが。

ただ重要なのは「熟練の眼のスコア化」。これはどういうことかというと、例えば今までは農作物を作った時にトマトが良い状態か悪い状態かというのは、熟練の農家の方が見れば分かるけど、普通の人が見ても分からなかったわけです。これがディープラーニングで分かるわけです。そうするとそこがスコア化できますね。そこがスコア化できると、成長の具合を良くするために、どういう栽培条件に設定すればよいかという前工程の最適化ができます。

同じように、食品で盛り付けの作業というのは人がやらなくてはいけなくて、盛り付けが綺麗かどうかというのは(機械には)分かりませんでした。ところがディープラーニングで認識させると良い盛り付け、悪い盛り付けとスコア化できる。そうするとスコアを上げるように前工程を最適化することができます。

これはいろいろな領域で言えまして、医療の画像でこの辺りが怪しい、病気の可能性がある、というのも熟練の眼ですし、顔認証も熟練の眼です。美容も美しいかどうかというのは、人間なら分かりますが、なかなか定量的に評価するのは難しかったわけです。そのように考えると、今まで感覚的だった産業がアウトプットをスコア化することによって、科学的な産業に変わるということになります。

二つ目は先ほどの機械の話に関連しますが、中心的な作業を自動化していくということ。どういうことかというと、農業における収穫の作業は非常に重要ですね。なぜかと言うと採っていいかどうかを認識しなくてはいけないので、熟しているか、良い状態かという判断が必要になります。またどれくらい収量が上がったか、品質がどうだったかというデータもたまります。そうするとそこが自動化されると前工程もどんどん自動化しやすくなるわけです。例えば食であれば盛り付けの作業ですとか、工事現場であれば重機の操縦などを自動化していくことによって、現場全体を自動化、最適化できる可能性があります。

そう考えると、この二つを起点にしながら現場の最適化をしていく。それを横展開して広げていくということができるのではないかということです。ただしっかり考えなくてはいけないのが、データ量が増えることによって、何の競争力が上がるのか、それが独占寡占につながるのか。これは領域によって違いますし、相当細かく考えていかなくてはいけないと思います。

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奥平:プラットフォーマーというのはまさに独占寡占的であるからこそ、非常に収益性が高いという認識ですが、例えばトマトやレストランのケースでも、独占に近い状態に持っていける可能性はあるのでしょうか?

松尾:あると思います。プラットフォーマーというのはいろんな意味がありまして、マッチングという意味で言うと、例えば家の中の片付けロボットができると、家の中の情報を誰よりも知っているということになりますから、日用品やインテリアを売りたい企業からするとインターフェースになります。そういったマッチングが発生してプラットフォーマーになるというのもあります。

そして、食や農業の分野でも、ある作物の気候や土壌状態における栽培管理の方法を誰よりもよく知っている事業者が現れると、そこに頼んだ方が収量が上がるので、そこに仕事が集まってよりデータがたまるというような構造も作ることができるかもしれない。

瀧口:産業ごとにプラットフォーマーが現れるから、そこを先に日本の企業が取っていくことが大事だということですね。

松尾:今までグーグルやFacebookが取ってきたところは広告産業ですが、それぞれの産業がそれに匹敵するか、それよりも大きな規模を持っていますから、やはり日本から各産業での覇者をどうしたら出していけるのか。その時に現場や機械というキーワードが重要になってくるのではないかと思っています。

奥平:今回のシリーズを通じて、現在はインターネットの時代だと1998年くらいだという話が非常に印象的でした。今がまさに分かれ道ですよね。(日本は)負けが込んでいるというお話もありましたので、一度失敗から学んでいかにAI時代に適した戦略を組み立てていくのかというのが非常に重要なのかなと感じました。

瀧口:各企業が真剣に取り組まなくてはいけないところに来ているということですね。

松尾:一つは(企業は)若手人材を活用しなくてはいけない。明らかにIT、AI、ディープラーニングの分野では若い人が強いですから、その能力を解放するということをしなければならない。それから戦略を持って戦わなければいけない。どこの入り口から参入するかという参入戦略、最終的にそこからどのように利益率の高い産業のプラットフォーマー、あるいは独占寡占のような地位を築けるのか、そこの筋道をしっかり立てて、それに向けてちゃんと投資をしていくということだと思います。

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安田:もう一点加えると、失敗を許すという(方向に)、人事の評価の仕方を変える。やはりイノベーションを生み出すためには試行錯誤しなくては話にならないですね。一回でも失敗すれば昇進できない、左遷されてしまうというカルチャーが少しでも残っていると、誰も委縮して挑戦しなくなってしまう。そこを変えていけばチャンスはある気がします。

瀧口:では最後に、松尾先生。今、AIによるイノベーションが進んでいる企業を挙げるとすれば、どこがありますか?

松尾:そうですね。日本の大手企業でイノベーションに力を入れている企業はたくさんあります。例えば、自動運転に取り組まれているトヨタさんやパナソニックさんも変化を起こそうとしていますね。その中でお手本になるのは建設機械のコマツさんだと思います。コマツさんはものづくりを起点にある種のプラットフォームを築きつつあります。土木というのは面白くて、非常に大雑把です。広い所を整地していくのですが、そこでGPSが目の代わりをします。要するに目を持った機械をどこよりも早く導入したということと同じことが起こっています。それによって自動化していきますから、そこが重要な作業であればあるほどデータがたまっていきます。いろいろな企業がコマツさんのやり方をお手本として取り組んでいくとよいのではないかと思います。

奥平:盛りだくさんでしたね。

瀧口:ここからの未来が楽しみでもあり、怖くもあり、そして楽しみでもありと往復しましたね。

奥平:まさに分かれ道に立っていると。

瀧口:というわけで4回に渡ってお送りしました。松尾先生、安田先生、ありがとうございました。さて次回はスタートアップが開く宇宙ビジネス新時代です。どうぞお楽しみに。