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瀧口:その客観的な認識について、安田さんはどうご覧になっていますか?

安田:今、松尾さんがおっしゃったことは、まさにその通りですが、ここでAIと言っているのは、おもにソフトウェアの部分ですね。1回目、2回目で松尾さんが詳しくご説明された深層学習のアルゴリズムや、それによって書かれる論文については、(日本は米中に)はるかに差をつけられてしまった。しかし問題はこれをどこに活用するかということだと思います。実はグーグルもFacebookも、ビジネスとして彼らが収益源の大半を手に入れているのは、インターネット上のヴァーチャルな世界ですよね。

しかしながら、経済規模で言うとリアルな経済、例えばサービス業は典型的ですが、(サービス業は)実際GDPの2割以上を占めている。日本だけでも(サービス業の経済規模は)100兆円を超えています。そういった非常に大きなマーケットがまだ残っています。AI、IoTとよくセットで言われますけど、IoT の時代になると、そういった全てのサービスにインターネットやAIが入ってくる。そこで日本が何か筋のいいビジネスモデルを出せば、もともとものづくりが強い国なので、そういったリアルとの相性はいいかもしれないですよね。ここでスライドを用意しました。これは少し希望的な観測があって、客観的な見立てではないかもしれませんが、日本寄りにまとめてみました。まず左に「ヴァーチャルからリアル」とありますが・・・。

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奥平:グーグル、Facebookの世界からIoTでリアルに染み出ていくと。

安田:例えて言うなら自動運転やこれから日本で深刻になっていく介護の世界もAIの活用が進んでいくと思います。(AIの活用が)市場規模の大きなものに移っていく。広い意味でAIが活用できる分野に目を向けると、まだブルー・オーシャンかもしれません。ソフトウェアの中ではすでにアメリカに負けてしまいましたが、広い目を向ければまだチャンスはあるかもしれない。

ヴァーチャルからリアルになった時の日本の相対的な強みとしては、利便性から安全性というのが非常に大きいと思います。インターネット上であれば、少々稚拙なプログラムであってもとりあえず出しておいて、不備があればアップデートして許されますよね。しかし、自動運転である程度の運転能力を出しました、事故が起きました、人が亡くなりました、となってしまうと、おそらくユーザーは離れてしまう。日本企業、日本に限らず、ものづくりの国というのは安全性に対する要求水準が非常に高い。そういうカルチャーがあるので、今後メリットになってくるのではないかと思います。そして、一番右です。これまでグーグルやFacebookに限らずアメリカ企業が強かった一つの理由は、もちろん科学技術が進んでいるということもありますが、(使用言語が)英語だということですね。AIの世界はデータの入力量を増やせば増やすほどサービスの質を改善できるという、ある種規模の経済のようなものが働くので、英語で情報が取れるというのはアドバンテージです。

奥平:(英語で)世界中から情報を取れる。1ヶ国で10億人抱えている中国も有利ですね。

安田:そうですね。その分日本語はハンデでしたが、これが自動運転やモニターを通じた顧客の購買行動の追跡となってくると、もはや言葉は関係無いですよね。その意味では競争条件がフラットになると言えます。大きいマーケットに対して、今まである意味不利だった分が無くなる。ここでどのようなデザインが出来るかによって、今後10年、20年先の日本経済を非常に大きく左右するのではないかということが、僕の見立てですね。

瀧口:安田先生から3点挙げていただきましたが、松尾先生はこちらについていかがでしょうか。

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松尾:僕も同意します。僕の言葉で言うと「現場」ですね。インターネットの時代と違って現場があるということです。現場にセンサーやカメラを置かなくてはいけないし、現場にロボットや機械を設置する必要があるし、現場で物が動くから安全である必要があるということだと思います。

奥平:三つとも全て現場に関係してくるわけですね。

松尾:そう考えると、日本は現場系の企業が多いですよね。オペレーションが非常に良いサービス業もありますし、機械やロボットのハードウェアを作る企業もたくさんあります。したがって販路も含めて世界中の現場に近い日本企業は多い。そういったところがうまく起点になると、もしかしたら、今後可能性があるのではないかと思います。

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安田:先ほどサービス業について言及しましたが、(日本の)サービス業というのはとりわけ労働生産性が低いと言われています。(日本のサービス業の労働生産性は)アメリカの約半分くらい。逆に言うと伸びしろがあるので、その部分の現場力を活かして、AIをどのようにサービスにつなげていくか。ここで先行者として優れたビジネスモデルを見つけていくことが出来ると、成長が期待できると思います。

松尾:例えば飲食の分野は利益率、生産性が低いとされていますが、各社大変な競争をしていて、良いものをより安く、皆が競い合っているから(日本では)非常に美味しいものが非常に安く食べられますよね。明らかに食のレベルは諸外国に比べて高い。もしこれを機械化することで海外に展開し、現場に持って行くことが出来れば、日本の品質で食を提供できます。これだけでも非常に大きな産業になると思いますね。