日経電子版、日経産業新聞と連動してイノベイティブな技術やベンチャーを深掘りするParavi(パラビ)オリジナル番組の「日経TechLiveX」。PlusParaviでもテキストコンテンツとしてお届けする。
今回は5月18日配信の「イノベーションを起こせ! "KDDIのスタートアップ連携"成功のヒケツ」。スタートアップとの連携に本気で取り組む大企業のランキング1位に選ばれたKDDI。ベンチャー起業とともに新事業創造を目指す「∞(ムゲン)ラボ」を実施。コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の「オープンイノベーションファンド」を通じたスタートアップ投資にも積極的だ。KDDIビジネスインキュベーション推進部の江幡智広部長をゲストに迎え、連携を成功させるヒケツを考える。
瀧口:こんにちは、日経CNBCキャスターの瀧口友里奈です。革新的なテクノロジーや今後成長が見込まれるスタートアップ企業に迫る「日経TechLiveX」。この番組は日経産業新聞、そして日経電子版と連動してお届けしております。動画配信サービス「Paravi(パラビ)」のオリジナルコンテンツとなっております。そして、私と共に司会進行していただくのは、日本経済新聞編集委員の奥平和行さんです。奥平さん、よろしくお願いします。
奥平:よろしくお願いします。早速なんですけれども、こちらをご覧いただきましょうか。企業名が並んでいるランキングなんですが、皆さん、何のランキングかお分わかりでしょうか?
瀧口:大企業がズラリと並んでいますね。
奥平:時価総額とか、そういうようなランキングに見えるんですが、実はこれは、イノベーティブ大企業ランキングと言いまして、スタートアップ企業との連携に熱心な大企業のランキングということになっているんですね。
瀧口:この調査は経済産業省とイノベーションリーダーズサミット実行委員会が共同で実施したというものなんですね。有力スタートアップ企業200社に調査したということで、かなりリアリティのあるランキングになっています。
奥平:さて、気になる1位なんですけれども、KDDIということで。ソフトバンク、トヨタよりも上なんですね。ちょっと意外と思われる方もいるかもしれません。
瀧口:そうですね。
奥平:実は、このKDDIでこの4月に新社長が誕生したということで、その就任会見をご覧いただきたいと思います。私、実はこの後ろに座っているんですけれども。新社長の高橋誠さんは、随分前になりますが、まだガラケーを使っていた時代に、スタートアップ企業との連携を成功させて、独自のコンテンツとかサービスを作られた方なんですね。会見では、新しいファンドの設立も発表してまして。
瀧口:こちらですね。有望なベンチャー企業を発掘するために、今後5年間で新たに200億円の投資をすると発表しましたが、これ、どれぐらいの規模なんですか?
奥平:2011年から7年ぐらいたってますけど、これまで100億円ぐらいを投資で儲けているんで、それが一気に200億円決まったというのは、相当力を入れていくってことだと思います。
瀧口:一層強化していくということですね。ということで、今回は、「イノベーションを起こせ!"KDDIのスタートアップ連携"成功のヒケツ」というテーマでお送りしていきます。それでは、ゲストをご紹介します。KDDIビジネスインキュベーション推進部・部長の江幡智広さんです。江幡さん、よろしくお願いします。
<江幡智広プロフィール>
1993年DDI入社。移動体通信事業の営業企画部門を経て、2001年からは国内外の社外パートナーとのビジネスデベロップメントを中心に活動。Google・GREE・Facebookなどとの事業・出資提携を手がける。現在「KDDI Open Innovation Fund」を活用した投資を含むビジネスデベロップメントの責任者として活動。2013年にはインキュベーションプログラム「KDDI∞Labo長」に就任。
江幡:よろしくお願いします。
奥平:ズバリまずお伺いしますけど、スタートアップとの連携を成功させるためのキーワードってどこになるんですかね?
江幡:関わるようになってから変えていないのは、ベンチャーファースト。それに尽きる感じですね。
奥平:私にとって、江幡さんはKDDIのスタートアップのイベントに行くと必ずいる人なんですけど。
江幡:いつもお邪魔しております。
<段ボールでVR体験>
奥平:早速なんですが、机の上に何か今日、持ってきていただいた、これはなんでしょうか?
江幡:最近、よく話題にするキーワードであるVRを簡単に見れるダンボール製の箱なんです。
瀧口:ダンボールでVRが見れるんですか?
奥平:普通、VRゴーグルっていうと3万円とかね。結構、大きいやつで。これは、1,000円ぐらいですよね。
江幡:そうです。
瀧口:こんなに手軽にできるとは知らなかったです。
奥平:実は私、やったことあるんですけど、結構、面白いです。ということで、瀧口さんの手元にも一個あるんですよね。
瀧口:こちらに用意していただきました。こちら、ハコスコなんですが、中にスマートフォンが入っているんですね。
奥平:そこに自分のスマホを入れればいい?
江幡:そうですね。
瀧口:これを早速、体験したいと思います。
瀧口:ボタンを押すと、出てきました。画面が動いてます。これ、もしかして、恵比寿ですか?ガーデンプレイスっぽいですね、すごい飛んでるみたい。いきなり飛びましたね。これ、見ている方向がすごく鮮明に見えますね。すごい!お空が見えます。
奥平:ドローンで撮ってる映像なんですね。
瀧口:わ~、すごい!すごい上下してます、これはスリリングですね。すごくリアルで。うわ~!下を見ると車が通っているのまで見れますよ。うわ~。
瀧口:これ、本当にリアルで。VRと言えば、一度Facebookのオキュラスは体験したことあるんですけれども、それと並ぶと言っていいぐらい。本当に1,000円でこういう体験ができるというのは、びっくりしました。
奥平:これはまさにVR機器は高いっていう常識を変えたような商品だったわけですよね。
江幡:身近に使っていただけるものとして、作られたものかなと思います。
奥平:これとKDDIの関係というのは?
江幡:先ほどご紹介いただいたファンドの方から出資もさせていただいておりまして、実際に、法人さん向けのキャンペーンなんかも含めて、ビジネスも一緒に彼らとスタートさせるっていう感じです。
奥平:法人向けのキャンペーンってどういう?
江幡:例えば、不動産の分譲マンションを売る時に、マンションの中を見たくても、まだ出来上がってないじゃないですか。出来上がってない状況で、実際に映像で、CGで作られた映像を360度見ることができるというのでも使えていますし、結構いろんなイベントでも使われるようになっています。本体にプリントもできちゃうんですよね。だから、企業ロゴなんかも入れたのができちゃうんですよ。
奥平:それは販売促進とかの目的に?なるほど。そうなってるんですね。
瀧口:低価格ですからね、VRを手軽に体験して、一気にVRが普及しそうですよね。そして、このハコスコを始め、KDDIが出資しているスタートアップがこちらになります。すごい数ですね。
奥平:全部でどれぐらいあるんですか。
江幡:2012年からですかね、始めて、今40社かなと思います。
瀧口:私、実際に使ったことがあるサービスも結構、ありますね、この中に。ハコスコ。ECのMonoco。これ、おしゃれなグッズが変えたりしますよね。その横のOrigamiもスマホ決済で使える。
奥平:アオイゼミはZ会でしたっけ?増進?
江幡:に、買収された会社ですね。
奥平:Venture Beatはスタートアップメディア。
江幡:アメリカの会社ですね。
瀧口:幅広いですよね。
<KDDIがスタートアップと連携を始めた経緯>
奥平:そもそもなんですけど、KDDIがこれだけ出資するようになったきっかけというのはどういうところにあったんですか?
江幡:そうですね、2000年ぐらいから携帯電話にインターネットの機能がのってきて、ガラケーみたいな言われ方をしてましたけど、あの時代に、結局、携帯電話って電話したり、メッセージのやり取りをするだけじゃなくて、いろんなサービスを体験するデバイスになってきたわけじゃないですか。そうすると、KDDI自身で、体験化をすべて提供するわけにはいかないので、外部のパートナーさんと一緒に作り上げていこうってなってきたわけですよね。なので、プラットフォーマーとの立ち位置もありながら、コンテンツを提供する方々とのパートナーシップをより広くやっていかなければいけない。それも、今、スマートフォンの時代であれば、よりグローバルに考えていかなければいけない。そういう中で、今回のファンドを作る動きになってきたんですね。
奥平:じゃあ、ガラケーの競争の時代に、止むに止まれずというか必要に迫られて始まったのが正しいんですか?
江幡:必要に迫られたというか、お客様にどう付加価値を提供するかというのを考えたときに、そっちの方向がいいだろうと。
奥平:なるほど。
瀧口:かつて連携してきたスタートアップはどういうところがありますか?
江幡:私自身も関わってきたところですと、GoogleさんとかFacebookさんとか。あと、GREEさんとか、ナビゲーションではNAVITIMEさんとか。日本の会社ですけれども、一緒に作りましたね。
瀧口:今や大企業となっている会社ばかりですね。
江幡:そうですね、大きい会社になっちゃいましたね、皆さん。
<KDDI ∞ Labo 設立の経緯>
奥平:今回、先ほどのランキングで、イノベーティブ企業の1位となりました。一つ大きいのは、∞ラボってスタートアップ企業とコアワークする仕組みがあると思うんですけど、この始まった経緯ともう一回枠組みについてお伺いできますか。
江幡:もともと、よりパートナーさんとの接点を広げていきたい。そのパートナーの一つがベンチャー企業っていう、何事も革新的なことを最初にやってくるプレイヤーがいますので、その方々と関わることでベンチャーが持っていないものを僕らが提供できるのであれば、二つが一緒になったら大きなことができるんじゃないかと。そういう気概を持った若い人たちも含めて、応援していきたいなっていうところから始めていったんですよね。
<スタートアップ連携 事業創生のスキーム>
奥平:これ、∞ラボみたいな共有する枠組みがあって、もう一つファンドで出資する話があって。全体をどう整理して考えればいいんですか?
江幡:比較的∞ラボの方は若い企業の方と関われるようにやってきているんですよね。
奥平:∞ラボですね。
江幡:はい、ヒカリエのオフィスをご紹介します。ベンチャーさんがこっち側にいて、いろんなプレゼンをしてるんですね。ベンチャー側も並んでいるんですが。実は、7期ぐらいから、パートナー企業さんとの連合を始めたところもあって、その辺でまた形も変えてった感じですよね。
瀧口:今の∞ラボは、SEED期の会社がほとんどということですか?
江幡:それもありますし、学生さんみたいなチームもありますし、ある程度プロジェクトがまとまってきて、次にどうマネタイズしていこうかって企業もありますし、結構、幅広くあります。
奥平:そうすると、スタートアップの成長段階に応じて、それぞれ緩やかに組むところから、最終的にはM&Aとかもあるんですね。、仕組み図がありますね。
瀧口:ご覧いただきましょう。
奥平:これはどう見ていけばいいんですか?
江幡:比較的、若いSEED期の企業さんとのお付き合いを∞ラボって形の中で始めました。こうやって事業を共創することも考えるプログラムなんですけど、この期間がだいたい半年とか1年ぐらいあるもんですから、僕らがベンチャーさんと何をやっていくかを考え、その中で事業をよりスキーム化することができそう、一緒にやることができそうだなという風になれば、ファンドの方で出資という形で資金もご支援させていただくと。
奥平:先ほど200億円とおっしゃったのですね。
江幡:そうですね。当然、その先でKDDIとしてコアになるような事業として考える方がお互いにとっていいんじゃないかということを考えた時に、最期はM&Aっていうところまでスライドで考えている。
瀧口:でも、IoT(アイオーティー)のソラコムもいきなりM&Aというところでしたね。
奥平:結構な金額で、去年、話題になりましたね。
江幡:そうですね。
奥平:それは、この辺の、コア事業に取り込んで、そうするとああいう形になっていくと。
江幡:必ずしも下から登っていかなくても、真ん中から入ってM&Aだったりとか、最初からM&Aってことも、相手の会社さんとどういうことを考えていくかによって変えていこうかなと思ってます。
<連携の成果>
奥平:ソラコムって会社は通信サービスをIOT向けに小分けにして売っているみたいなイメージの会社さんですよね。これまでの実績としてKDDI側の成果っていうんですかね、どういうものがあるんですか?
江幡:∞ラボの卒業生で出資させていただいて、事業提携に進んでいる会社さんもありますし、あとは、eコマースですね。その世界で僕らがauウォレットマーケットってサービスを立ち上げたんですが、実はその裏側はルクサさんってベンチャーさんで。
奥平:出てきましたね。
瀧口:auの主力事業ですよね。
奥平:ここには、byルクサってある。
江幡:実はauがやっているいろんなサービスが大企業さんとのジョイントベンチャーで、Web Moneyとかエンタメはkkboxさんがいたり、チケットぴあさんなんかもいたりしますけど、eコマースなんかはルクサさんとか。
奥平:そうすると、消費者から見るとオレンジ色のロゴがついているauのサービスだと思っているのが、実は裏側はスタートアップだったり、ジョイントベンチャーなんかが支えていると。
瀧口:支援を受けても、KDDIさんと連携せずにどこかに行ってしまうという企業はありませんか?
江幡:タイミングでやってきてることを変えたりしてますんで、GREEさんとはゲームの事業を一旦始めて、大きくしていって。また次の事業に変わっていくみたいなこともしていますので、それぞれで時代においていろんな方々とやっているのも実態ですね。
奥平:当然、スタートアップとしても成長を求めるんで、やっぱりKDDI以外と組んだ方がいいんじゃないかと思うケースもあると思うんですけど、そういう場合はどうするんですか?
江幡:特に∞ラボのケースなんかだと、僕らと様々な企業さんとの連携で考えていくんですよね。だから、KDDIがそこに関わるケースもあるときもあるし、ないときもあるし。逆にパートナー企業さんとだけやるようなケースっていうのは僕らも認めているので、そこは一番いい形を模索している感じですね。
奥平:必ずしも緩やかに組んだ段階で、KDDIに組み込んでいくっていうのではなく、いろんな可能性を許容しているというか。
江幡:なので、ファンドで出資させていただいたあとに普通にIPOって形で上場されている会社さんもあります。
奥平:今、上場された会社は何社ぐらいあるんですか?
江幡:どうでしょう、4~5社ぐらいあるんじゃないですかね。M&A、buy offも含めてですね。buy offを加えるともっとあるかな。
瀧口:はい。そして奥平さん、このスタートアップ連携について、高橋新社長を先ほど、ご覧いただきましたけれど。
奥平:高橋さんとは何年か前から取材を通じておつきあいさせていただいているんですけど、高橋さんも業界では有名な方で、スタートアップといえば高橋さんと。メディアの前によく出てこられるんで、就任会見で出てこられた時に、記者席から笑いが起きるっていう、珍しい現象だったんですけど(笑)。それぐらいお馴染みの方だと。高橋さんにスタートアップ連携についてインタビューの時間をもらいましたので、ぜひ聞いていただきたいですね。
(VTR)
◆高橋社長インタビュー
「最初から「ウチが買ったんだ、おまえのところの価値は何十億だったろ?」「早く返せ」というのが通常のファンドですよ。で、僕たちは事業会社なので、まずその会社が大きくなるための"基礎固め"をしてあげる。基礎が出来上がると、彼らはそれをベースに事業拡大していくアイディアはあるので、最初の"基礎をつくる"ところがまず大事で、ここがハンズオンできるかどうかが勝負だと僕は思う」
――奥平:出資する側としては忍耐強さが求められますよね?
「忍耐・・・でも、サラリーマンだから。ある意味では、まあ、会社のお金なわけですよ。正直に言って。だから、そういう意味においては、企業の方がやりやすいんじゃないかな。ちょっと辛抱強く育成するという心さえ決めれば、できると思いますよね。ただ、ベクトルを間違っているCVCはみんな失敗していくんだろうな。短期的なリターンを求めている会社はやっぱり失敗している」
――奥平:ありがとうございます。
「いいんですか?こんなんで。すいません、応援してますとかいらないですか(笑)?」
――奥平:あははは、お願いします(笑)。
高橋:じゃあ、「日経TechLiveX」スタートアップ!僕、本当にスタートアップ好きなんで、応援してます!
(スタジオへ)
瀧口:すごいですね、ありがとうございます高橋社長!恐縮ですね。ということで、短期的なリターンを求めるCVCはダメだと、長期的に見ていかなくてはいけない。
奥平:会社のお金だからと、すごいことをボスはおっしゃってましたけど。
江幡:はい、もうそういう風に理解することにします(笑)。
全員:あははは(笑)。
瀧口:ということで、今日KDDIのスタートアップ連携を見てきましたけれども、奥平さん、ここまでいかがだったでしょうか。
奥平:やはり高橋社長もおっしゃってましたけれども、CVCって今、ブームでして、先が見えない時代といいますか、非連続の変化とかいいますが、やっぱり革新的なことをやるとスタートアップ連携、一つの手段なんでブームなんですけど、なかなかうまくいかないケースもあると。そこで、一つKDDIの話を聞いていて思うのは、トップのコミットって重要なんだなというところはここまでで改めて感じてます。
瀧口:手を握り合うってことが大事です。さて、次回はKDDIの∞ラボの一期生として参加し、その後もau事業と提携してサービスを展開し続けているギフティの太田社長にも来ていただきます。大企業とスタートアップの連携で今後どんなイノベーションが起こるのか、どんな課題があるのか伺っていきたいと思います。それでは、江幡さん、ありがとうございました。
(C)Paravi
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